2001/4/22  14.生分解性プラスチックのお話(基礎編−その6)
最終更新 2006年4月20日 
 
「この素材は生分解性プラスチックなんですよ。」
「あぁー、聞いたことあります。溶けて無くなっちゃうって奴ですよね。」
「はい」
「どのくらいで分解するんですか?」
「えっ!〜〜それは〜〜・・・・」
日本中、いや、世界中で生分解性プラスチックと言えば必ず繰り返されてる会話がこれ。
ところが材料メーカーや研究者にとって、実は未だこれほど答えにくい質問は無い。
見栄を張らなければ「分からない」と答えるのが正しい、って言うか親切ってもの。
生分解性プラスチックと言う以上もちろん分解する訳だが、相手は微生物、そして土であり海水であり川水である。
肥えた畑の黒土もあれば赤土も粘土もある。
清水もあればどぶ川もヘドロもある。
たとえ同じ生分解性プラスチックであっても、その条件によって分解性(=分解時間)など如何様にも変わってしまうやっかいなものなのである。
いわゆる化学反応であれば、濃度や温度によって反応時間を計算出来るかもしれない。
反応式で熱量や関係する物質の必要量も計算可能だろう。
しかし生分解性プラスチックの分解に関してはそれほど単純には行かないのである。
つまり、
1. 微生物がどこにどれほど居るか定量的には分からない。
また同じ場所でもその生息数は常に変化している。
2. ここなら微生物が豊富そうだと判断出来ても、その微生物が今処理しようとしている生分解性プラスチックに対して、どれほど活性を示すものか分からない。
3. ↑2項に関係して、微生物の種類によって分解出来る生分解性プラスチックの種類が異なる、または限られる?
(様々な種類がある生分解性プラスチックの分解には、それぞれ別の微生物が関与している可能性がある。)
4. 更に↑2項に関係して、分解に関与する微生物そのものを特定することがリアルタイムでは困難。
物質を特定するような場合に用いる試薬のようなものが無い。あるいは少ない。
5. 微生物も生き物であり、その活性は季節・温度・湿度・PH・酸素量等周囲の環境条件に極めて敏感に左右される。
などなど 
 
結局、土に埋めるのも水中での分解を期待するのも、「やってみなけりゃ分からない」っていうのが正直な回答である。
しかもそれは同一箇所でも、極端な話し「今年は冷夏で・・・・」などと言う理由で大きく異なることがあるかも知れない。
地球上すべての処理施設(場所)について一つ一つ調べ仮に良好という結果が出ても、それは調べた日時での結果であってリアルタイムの状況とは大きく異なる場合が多いだろう。(調査結果が出るには時間が掛かる)
もちろん、その状態をいつまで維持できるかさえ分からない。
では、良いと思ってやたら埋めて見た結果、仮に何年経っても分解しなかった時、果たして途中で掘り返し別の処理を考えるのか?
いやいや、そんな非効率・非現実的なことは到底承知出来ない。
これは、生分解性プラスチックだからといって「埋め立て処理には適さない」、ということを示しているのである。
まして組織的、または事業として自然環境中での分解を試みるのは、むしろ無責任で危険な行為と映るかもしれない。
生分解するからと言ってやみくもに廃棄しては、やがて他のプラスチックと同じ問題が起きるだけなのである。
 
生分解性プラスチックの一般的(化学的?)な定義はこの項初回に述べた。(⇒こちら
しかし、前述の実情からはもっと現実的な定義を考えてみたい。
「生分解性プラスチックとは、例外的に(人の意志に反して)やむなく自然環境中に放置されることとなっても、やがて微生物の作用により分解していくプラスチックである。
しかし、初めから自然環境中に放置され分解されることを前提(目的)としてはいない。」
↑これ、非常に重要なこと(あくまで個人的見解だが)。
農漁業資材や土木資材、医療用資材のように1回使い切り用途、あるいは積極的分解目的用途でも、全体から見ればやはりそれらは例外的な事例と考えたい。
「初めから(製品ではなく素材として)捨てる目的で作られたプラスチックでは無い。」
↑ここがポイント!!。
 
ちなみにJISでは分解性の試験法として、「管理された環境下」であることを明言している。
他と比較出来る基準条件を示す意味で、これは試験法の提示として極めて当たり前なこと。
しかし、同時に結果を見る上で注意すべき点があることも考えよう。
たとえば、ある生分解性プラスチックで分解性能への言及があっても、それは上述のように温度・湿度等を管理した条件下での分解結果が示されているに過ぎない。
決してその辺の土中や水中に放置して同じ結果を導き出せるものではない。
仮に自然環境下での試験結果が示されても、それはあくまで試験をした特定の地で、特定の生分解性プラスチックを、特定の時間試した結果にすぎない。
全国どこでも普遍的に通用する結果では無いのである。
 
−−つづく−−
 
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