2002/8/20  生分解性プラスチックのお話U
 
26.化学合成系生分解性プラスチック/PBS系その1
 
代表銘柄
PBS系 ビオノーレ/昭和高分子
ルナーレSE/日本触媒
エンポール/韓国
ユーベック/三菱ガス化学
バイオマックス/デュポン
乳酸系 ラクティ/島津製作所⇒トヨタ自動車へ営業譲渡
レイシア/三井化学
ネイチャーワークス/米:カーギル・ダウ
PCL系 セルグリーンP−H(P−HB)/ダイセル化学工業
TONE/UCC
PVA系 ポバール/クラレ
ゴウセノール/日本合成化学
など
 
化学合成系と一口に言ってもその種類は大変多い。広い意味ではすべてのプラスチックが化学合成されるものであるが、今回よりその化学合成系として現時点でもっとも広く普及していると思われる「PBS(ポリブチレンサクシネート)系」について話を始めよう。上記の代表銘柄中では広い意味で、上から5番目までがPBS系生分解性プラスチックである。
PBS系生分解性プラスチックは数ある化学合成系生分解性プラスチックの中でも、脂肪族ポリエステルの雄としてもっとも良く知られている。現在国内におけるPBS系生分解性プラスチックとしては「ビオノーレ」がその代表格で、現時点で他の生分解性プラスチックと合わせても国内最大級の生産量を誇っている。
PBS系プラは主にグリコールとジカルボン酸の脱水重縮合反応から得られるとされ、現在は化石資源より合成されている。この仲間にはPBSの他にPBSA(ポリブチレンサクシネート・アジペート)、PES(ポリエチレンサクシネート)、PBSC(ポリブチレンサクシネート・カーボネート)、PEST(ポリエチレンサクシネート・テレフタレート)などなど似たような名前は枚挙にいとまが無い。これらは書いてる筆者も資料を見ながらでないと頭がこんがらがるようで、必ずしも化学的性質や合成法が似ているとも限らない。また、前述の名称・略称にしてもまだまだ統一されたものではなく、色々資料によって異なるかも知れないのでご了承願いたい。
PBS系生分解性プラスチックの生産には石油化学の延長線上の技術が用いられ、そこでのノウハウを駆使することにより多くのグレードを作り出すことが可能である。たとえば射出グレードでは通常MI(メルトインデックス=MFI、MFR等の指標も基本的には同じ)を10〜30程度として生産されるが、押し出し、ブロー、フィルムなど各グレードにより、1以下から50以上までの範囲で広く任意に選択可能と言われている。
また、物性面では比較的柔軟なPE(ポリエチレン)に近似した結晶性プラスチックで、ナチュラル色が薄い乳白色の半透明プラスチックである。弾力感有る手触りは軟質塩ビにも近いものがあり、これら多くの市場を占めるPE、PVC(塩ビ)、PP(ポリプロピレン)の代替え素材として、PBS系プラは特に有望と考えられている。
更に、分子量など元々の素材を変化させることはもちろん、タルク、ベントナイト、ガラスファイバー(←環境面では好ましくないが)、植物性ファイバー類など、無機・有機の材料をそれぞれ混合することにより、物性や分解性を変化させることも容易でその効果も比較的大きいと思われる。これらはいずれも石油化学で培ったノウハウの応用という、化学合成系生分解性プラスチック故の大きな利点でもあり、価格的にも相応の量さえ確保出来れば他と比し十分戦えるだろう。
尚、「石油」または「化石資源」という言葉に環境問題に敏感な人は首をかしげるかもしれないが、単に原材料やプラスチックの生産部分を見るだけでなく、廃棄やその後の処理のことも考えて総合的な判断をしてみよう。実際、材料メーカーにもその辺の声は十分届いているらしく、植物性原材料からも生産可能となるよう研究は進んでいると聞いている。
PBS系生分解性プラスチックは大気中では化学的にも安定し、臭いもほとんど感じられないだろう。しかし、フィールドテストを含む分解性試験におけるその挙動はなかなか侮りがたく、生分解性プラスチック全体の中ではむしろ分解性に優れる部類に属している。特にコンポスト下での分解性はなかなか優秀で、現在生分解性ゴミ袋や農業用マルチシートなどとして利用されるフィルム関係では、多くの実績を占めているのである。またPBSに比較し、PBSAでは更におよそ2〜3倍ほどの分解性を示すとも言われている。
ポリエステルであるPBS系生分解性プラスチックは成形前乾燥が必須で、およそ70℃前後5〜6時間程度を基本としたい。エンプラのPBT(ポリブチレンテレフタレート)やPET(ポリエチレンテレフタレート)ほど厳密ではなく、成形作業自身は乾燥無しでもほとんど問題なく出来るが、そのような製品はやがて時を経て加水分解し極端に物性を落とすので好ましくない。
PBS系プラは生分解性プラスチックの中ではクリープ特性が優秀で、比較的癖が付きにくい。また、PPのようにヒンジとしても使用可能で、ちょっとしたクリップなどには面白いかもしれない。更に他の硬質部材などへ圧入することが容易なため、容器の蓋やツマミなどにも使用出来そうである。
さて、問題はその成形加工性であるが、優しいとも難しいとも、どちらへでも転がる弥次郎兵衛のようなところがある。要は製品(形状)設計、金型設計はもちろんのこと、成形者の技術にも大きく左右されるのである。ポイントを押さえてあれば全自動成形も可能だが、もし安易に汎用プラの延長上でやろうとすると大誤算を招くかもしれない。良品を得ようとすれば次回以降お話するいくつかのポイントをしっかり押さえた製品設計と成形条件、そして何よりそれを具体化させる金型設計が重要となる。
 
次回は成形性について。
 
つづく
 
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