2003/3/3  生分解性プラスチックのお話U
 
32.化学合成系生分解性プラスチック/PCL系その1
 
化学合成系の隠れヒットと言っていい生分解性プラスチックに「PCL(ポリカプロラクトン)」がある。生分解性プラスチックの多くは化学的に脂肪族ポリエステルと呼ばれるものであるが、PCLは古くからあるその代表選手でもあった。10数年ほど前まで、射出成形可能な材料として微生物産生系くらいしか無かった生分解性プラスチック界に、他のほとんど唯一と言っていい選択肢に入っていたのがPCLである。
ここではPCL系の代表としてダイセル化学工業の「セルグリーン(旧名プラクセル)」を取り上げてみたい。
「生分解性プラスチック=熱に弱い」という定説?が生まれた背景には、初期のPCL系生分解性プラスチックを指した言葉がそのまま一般化されてしまった感がある。それもそのはずで、PCLは融点が約60℃と極めて低いのである。とは言え、ガラス転移温度が−60℃という高結晶性のプラスチックでもある。多少高温になったくらいですぐに溶け出すという訳ではない。それでも真夏の車内などで原形を留めるのは難しいだろうか?
代表メーカーであるダイセル化学工業では基本グレードであるPHの他に、この耐熱性を改善したPHBグレードを商品化し100℃前後の融点を実現している。現在一般に利用されるPCLは多くがPHBグレードで、従来のPHグレードは他の生分解性プラスチックの改質剤(柔軟性、非破壊性、ヒートシール性などの付与)として利用されることが多いようである。
PCL系生分解性プラスチックの物性はPP(ポリプロピレン)に近似した半硬質系結晶性プラスチックである。ナチュラル色が白色の不透明プラスチックで、割れを伴い破壊することは希であり、破断伸度も300%以上と大きい。常温での様子はPPと言われてもまず見分けがつかないだろう。
PBS系のように植物性ファイバー類や無機・有機の材料と混合するという話はあまり聞かないが、高結晶性でもあるのでその効果も大きいと思われる。
PCL系生分解性プラスチックは大気中では化学的に安定し、廃棄時の分解性は生分解性プラスチック中では中程度にランクされると思われる。成形中及び成形後の製品には胃腸薬のようなほのかな臭いがあり、個人的にはけっこう好ましく感じている。
コンポスト下での分解性もなかなか優秀で、ゴミ袋や農業用マルチシートなどフィルムとして利用されることも多い。
ポリエステルであるPCL系生分解性プラスチックは成形前乾燥が必要である。一般にはPHBグレードの場合でおよそ70℃前後5時間程度を基本としたい。エンプラほど厳密でないのはここでも他の生分解性プラスチックと同様だが、怠るとやがて時を経て加水分解し割れを生じやすくなるなど極端に物性を落とすので好ましくない。
PCL系生分解性プラスチックはなかなか成形加工性に優れている。一般には融点の低さに伴う温度設定の問題から、登場当時の成形性はかなり特殊なプラスチックとの位置づけであった。しかしPHBグレードではそのような問題も大きく改善され、ほとんど汎用プラと同じ感覚で成形可能となっている。成形機を選ぶこともなく生分解性プラスチック中では固化も早く、サイクルタイムもほぼPP並と思ってよい。
PCL系はPBS系と同様に、プラスチックらしいプラスチック(妙な言い方だが)と言えそうである。原材料は石油で、現時点で植物性とは言えない。機能、安全性、環境適合性などトータルに判断し、より良いものを求めた結果の一つがPCL系生分解性プラスチックにもあるようである。
また先述したように、他の生分解性プラスチックを改質し更なる機能アップを果たす役割も大きい。最近、話題の多くを占める乳酸系の台頭、PBS系の増産計画などに対して、ダイセル化学工業でもCBSグレードという新たな改良グレードも開発中と聞く。主にフィルム用途のようであるが今後どのような展開を見せるのか、他の動きが活発化してきた今こそ楽しみな素材となりつつある。
 
次回は成形性について。
 
つづく
 
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