2003/9/3  生分解性プラスチックのお話U
 
34.化学合成系生分解性プラスチック/PCL系その3
 
PCL系生分解性プラスチックについて金型製作上の注意点をまとめてみた。
PCL系プラスチックは化学合成系の代表品種として古くから上市され、単独で使用される他、改質剤として他の生分解性プラスチックとブレンドされたりすることも多い。ここでは単独で使用されるナチュラルグレードの金型について述べていこう。
1.コマ割り構造
PCL系生分解性プラスチックは特にバリが出やすいというプラスチックではない。
生分解性プラスチックの中では比較的固化の早い部類で、後に述べる温調・冷却さえ問題なければ成形サイクル的には汎用プラに近い条件設定が可能である。汎用プラ用成形金型と同等のコマ割りで問題なく、成形時は無用な保圧などかからないよう条件設定を行う。
2.エアーベント
PCL系生分解性プラスチックは特にガスの多いプラスチックではない。
前述のコマ割りとも関係するのだが、通常設けられるエアーベントで問題となることは少ないと言えるだろう。成形条件的にも温度設定以外は中庸な条件となることが多く、無用な高速射出は必要ない。ヤケや充填不足の心配は双方とも少ない方である。
3.ゲート
制限ゲート(ピンゲートやサブマリンゲートなど)を含め各種ゲートとも可能である。
4.スプルー&ランナー
スプルー及びランナー断面積は一般的に用いられる汎用プラと同等で差し支えない。
5.温調・冷却
PCL系生分解性プラスチックも金型の温調・冷却方法とその配管方法には、他と同じくもっとも注意を要する。
成形品品質はもちろん、特に経済性についてはここでも命運を握ると思って良い。暖めるにしろ冷やすにしろ、水穴配管はキャビティ各部へ合理的に配置することはもちろん、忘れてならないのがスプルーやランナーに対しての処理である。これらはすべて射出成形用生分解性プラスチック金型に共通した特徴でもある。
一般にホットランナーや特殊なプラスチックでない限り、スプルーやランナー部への温調はあまり意識しないと思われる。しかし、それらは製品自身よりも肉厚であることが普通で、汎用プラに比べ固化の遅い生分解性プラスチックにあっては、その対応の有無が成形サイクルに極めて大きく直接的に影響するのである。したがって製品部はもちろん、スプルーやランナーにも取り巻くように冷却管を配置する。乳酸系などほど厳格ではないにしろ、やはりこれらは必須条件と考えたい。
6.突き出し
PCL系生分解性プラスチックは比較的取り出しやすいプラスチックである。
一般に金型へ密着したがったり取り出し時に変形しやすい生分解性プラスチックの中にあって、PCL系生分解性プラスチックは比較的取り出しやすい部類である。但し、他と同じく固化温度には敏感なので前述の金型温度設定には注意を要する。通常、特にポットやコップ状の深物成形品でなければ0.5〜1度程度の抜きテーパーで問題なく、要所要所に突き出しピンを配することで取り出し不良となる可能性は少ない。尚、ポット状の製品では他の生分解性プラスチックと同じく、キャビ・コア双方からのエアーブローも考慮に入れておこう。
7.アンダーカット
半硬質系であるPCL系生分解性プラスチックの正しく成形された製品は、決して脆いプラスチックではない。
通常、PCやABS等で行われる程度のアンダーカットには何ら問題なく、キャビ・コアのいずれか一方が逃げていれば無理抜きにも支障ない。応力集中によるクラックなどの発生も少なく、程度問題ではあるが通常の金型設計を妨げるものではない。
8.その他
  a.金型材質は特に選ばないが温度制御の行いやすい材質が好ましい。
  b.インサート成形やアウトサートの圧入などにも対応可能である。
  c.成形収縮率は2%前後を基本とするが、組立物等の場合は必ず試作型で確認すること。
 
−おわり−
 
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