000610  4.プラスチックのお話(その3)
 
シリーズ3回目。基礎的な分類としてもう少し話を進めてみよう。
プラスチックには結晶性プラスチックと非結晶性(非晶性)プラスチックというのがある。
一般にはどうでも良いような話かも知れないが、プラスチックの話として避けて通れない極めて重要なところである。もちろん知ってて損はない。
今回は結晶性プラスチックについて話をしてみよう。
 
結晶性プラスチックとは
その名のごとく、プラスチック分子の配列が規則正しい結晶構造で硬化するプラスチックの総称である。細かく分けるとかるく100は越えようかというプラスチックの種類の中でも、おそらく80%程度はこの結晶性プラスチックの仲間であろう。
さてその結晶構造だが、固化したプラスチック表面付近に留まる場合と、奥深くほぼプラスチック全体に行き渡る場合がある。一般にこの結晶化はゆっくり硬化させた方が深く緻密になると言われ、成形時の金型温度に左右されることが多い。通常この金型温度は汎用プラで25〜80℃、エンプラで40〜120℃、スーパーエンプラで70〜180℃程度に保つことが多い(もちろん種類や製品によって異なるが)。結晶性プラスチックでその本来の性能を発揮させるには、当然、結晶化がより高くなるよう条件設定すべきことは想像されるだろう。つまり金型温度を上げた方が良い訳である。しかし、これも想像されるようあまり温度を上げすぎるとプラスチック自身の固化が遅くなり、作業効率を極端に落とすこととなりかねず収縮も大きくなる。時間当たりの生産数量が少なくなってしまう=コストアップに繋がるという訳である。
もっとも反対に金型温度が低すぎるとプラスチック本来の性能を発揮しないばかりか、成形品の場所によって結晶化度が異なりやっかいな二次不良を起こしかねない。ソリや変形、時にはストレスクラック(詳細は省くが成形後時間をおいてヒビ割れ等の起きる現象)を生じる原因となる恐れがあるのだ。
やはり何をするにもその道のプロとなるのは難しいもの。言葉は悪いが成形もバカでは出来ない。バランス感覚が重要なのである。
 
さて、結晶性プラスチックには共通した特徴がいくつかある。次にそれらを上げてみよう。
 
(1)耐薬品性に優れたものが多い。
プラスチック表面を強固な結晶構造で覆うため、薬品・溶剤等に対して強いのである。たとえ表面的に変質しても内部まで浸透して侵されにくいと思えばいいだろう。中には溶かす溶剤がほとんど存在しない程の耐溶剤性を示すプラスチックもある。
(2)成形時の収縮が大きい。
成形時、高温で液体状に溶かされたプラスチックが金型内で固まる訳であるが、やはり液体から固体になる時には一般に体積の減少を伴うものである(水→氷のような例外もあるが)。大体2%前後の収縮率となるものが多く、およそ1%を越えるものは結晶性プラスチックと思って間違いない。
(3)充填材により強度アップ効果が顕著。
特に強度や靱性を必要とするような用途では、プラスチックにガラス繊維やカーボン繊維を混合することが多い。結晶性プラスチックではその効果が非結晶性プラスチックより大きく出るのが普通で、いわゆるFRPのようなガラス繊維強化型プラスチックと呼ばれるものである。このガラス繊維強化は同時に耐熱性・強度等へのアップ効果も大きく、特に電子部品や車等の精密高耐久高耐熱性を要求される分野では独壇場とも言えるだろう。又、副次的に先の成形収縮を軽減する働きもあり、これにより収縮は0.5%前後に落ちることが多い。ここで収縮率が小さくなると言うことは寸法のバラツキが小さくなることでもあり、精密部品に向くということも意味している。
(4)エンプラやスーパーエンプラでは強靱なものが多い。
これも単純に考えて結晶というのは硬いという印象がある通り、プラスチックも同じである。汎用プラや一部エンプラなど必ずしも当てはまらないものもあるが、結晶性プラスチックは概ね硬く強いプラスチックが多い。
(5)融点がはっきりしている。
これは氷が0℃までその形を保つように、結晶性プラスチックも融点までの間で比較的強度を保つことを意味している。また同時に0℃以上で氷が水となるように、融点を境に流動性がグッと増すことも同時に意味している。したがって、融点付近までの耐熱強度、耐熱クリープ、耐熱安定性等々が優秀で、且つ成形時の流動性に優れたものが多い。
尚、逆説的だが流動性の温度依存性は小さい。つまり水は融点以上なら5℃でも90℃でも流れ方に差がないように(厳密にはあるのだが)、結晶性プラスチックも融点以上いくら温度を上げても流動性の変化は比較的小さいということである。
(6)その他
a.耐摩耗性の良好なものが多い。
主にプラスチック表面の強固な結晶構造によるものである。
c.不透明なプラスチックが多い。
PETのように透明性の結晶性プラスチックもあるが、結晶構造には光を遮る効果もあり不透明なものが多い。
 
最後に具体例を上げておこう。
汎用プラでは、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩ビ等。
エンプラでは、ナイロン、ポリアセタール、PBT、PET等々。
射出用のスーパーエンプラは大概結晶性プラスチックである。
 
−−つづく−−
 
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