愛知時計/へそ形目覚まし時計 | ||||||||
最終更新 2010年 8月13日 | ||||||||
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愛知時計の終戦前後と思われるへそ形目覚まし時計です。 明治25年、水野伊兵衛は後に時計産業の一大集積地となる愛知県でも、林時計に次ぎ2番目となる水野時計製造所を創業します。翌26年、五明良平を社長に愛知時計製造合資会社となり、明治31年株式会社に改組。国内でも有数の時計会社に成長し、戦後の高度成長期まで数々の名時計を世に送り出します。 現在、時計製造からは撤退したようですが、その遺伝子は製造過程で養った精密加工技術を基に愛知時計電機株式会社として受け継がれています。ちょうど100年前、明治45年(1910年)7月に現社名に替わり1世紀。途中何度かの改組による変更はありましたが、これほど長期間「愛知」の名を冠し生き抜いた大変珍しい会社でもあります。 この時計は終戦前後と思われるチープなへそ形目覚まし時計です。混乱期と言える当時において愛知県のアイデンティティーの一つ時計製造の継続、あるいは復活させた意気込みが伝わってきます。名門復活ここに有りという気概だったことでしょう。 調達できる材料も限られたであろう当時、後述のようなチープ感は否めませんがそれも歴史の証です。幸いレストアも叶い、その生き証人として復活させることが出来ましたのでご紹介致します。 |
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入手時外観 入手時外観は・・・・^^; 錆び錆び、傷だらけ、塗装剥げ剥げ、まさに歴史の生き証人!? とは言え、振れば単発ですが動作音も聞こえるという状態での入手です。針ツマミは替わってるようですが他はフルオリジナルと思われ、紛失の多いリン止めレバーも付いています。青塗装された筐体はこの種で一般的な抜きテーパー付き段付絞りではなく、缶詰のような寸胴形です。形的には目覚まし時計でも初期に属するビー目覚ましと呼ばれる、一世代古い時代の作りに先祖返り? |
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分解部品と薄い鉄板ゴトク ツマミ類や足など緩め、幸い錆などによる固着もなく簡単にバラせました。各部品とも作りが・・・・^^; 真鍮のように見える文字板飾り枠や裏蓋は、共に鉄板に真鍮色(金色)塗装です。青塗装寸胴の筐体枠は次項写真でも分かるように、平板の鉄板から打ち出されて作られています。 鉄板のゴトクは大変薄く、絞ってある枠部分はいいのですが平板部分はへなへなで簡単に曲がってしまいます。機械を抑えるべき舌状部もご覧のように浮いていました。文字板の内側に曲がっていて、うつ伏せの落下履歴があるのでしょう。よくガラスが割れなかったもんだ! 同様に機械地板もかなり薄め! |
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部品一式 入手時外観からしてそれなりの錆や汚れは致し方ないところでしょう。それでも致命的な問題は無さそうで、アメリカ製を思わせる小型の機械も、普通にレストア可能なように見えます。 |
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入手時機械 それなりの錆と綿埃と・・・・^^; パッと見、目立つ傷みは無さそうです。地板に刻印はなく、補修跡もありません。ひょっとして開けられたことないのか?と思うくらい。リンを載せた形から便宜的にへそ形目覚ましとしましたが、機械だけ見ると良く見る小形目覚ましという感じです。 リン側ゼンマイの外周へコの字に接触するステーは、ある程度緩んだ時ハンマーを止めるためのものです。 良く見ると下のアップ写真のようにヒゲゼンマイが歪み一部絡みついており、そりゃこれじゃ連続振動は無理だよね、って感じ。全体に油っ気もまったくありません。U字を描く調整レバーがちょっと変わっていて、遅れ側に振りきっていました。 |
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紙文字板 厚紙製紙文字板・・・・と思いきや、ほとんど画用紙程度の薄い紙文字板です。それなりに固くハリのあるのが救い?! 妙に歪んでいる手書きしたような数字文字で、後補修の書き足しのように見えます。でもこれでオリジナルです。ルーペで見ると印刷には違いないのでしょうが、ゴム印を押したように全体をスタンプでペタッ・・・・という感じ。24時間表示が有るため戦中、もしくはその名残かと思われます。 表裏から錆によるシミ汚れなどありますが、文字板全体はきれいによく残っています。 |
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リン周りメンテ 見事に!っと言っていいくらい錆び錆びのリン周りを磨き上げます。 中砥のサンドペーパーで擦り上げザラつきを落とし、ミシンオイルを湿らせたウェスで入念に拭き上げ更に乾拭きします。これで当面問題ないでしょう。リンには申し訳ない程度にめっきの痕跡が・・・・^^; |
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機械メンテ テンプ周りの調整や注油など機械メンテを行います。 一旦テンプを外し、ルーペで見ながら歪んだヒゲゼンマイの形をピンセットで摘んだり、針先でクイックイッと軽く癖付けするなどして整えます。この手の作業に倍率はさほどいらないけど、両手の使えるルーペは必須。機械式時計の心臓部を弄ってることになるので、慎重に時間をかけて行います。 続いて遅れ側いっぱいだった振動サイクルのレバーに調整幅の余裕を持たせるため、余っていたヒゲゼンマイ終端の固定位置をこれまでより10mm弱長く取り付けます。それによってアンクルに対してテンプの振動中心がずれますので、ヒゲ玉(ヒゲゼンマイを軸に取り付けるC環)の切れ目に一番小さな精密ドライバーを差し込んでヒゲゼンマイ側を固定。その状態で天輪(テンワ=テンプのリング)を回して、つまり天輪に繋がった軸側を回して調整です。天輪は振動中心がアンクル側を向くように、大きく振らせたい方向に回します。最後にちょこちょこっと注油して、上写真のようにまだゼンマイが緩んだ状態ながら元気に復活 (^^)(^^) 腕時計や懐中時計だと小さいし精密だしで、素人仕事ではよほど器用な上に専用工具とかないと壊しちゃうのがオチ。でも、この種の目覚ましならちょっと器用でコツさえ覚えれば、それほど難しい作業ではありません。 下写真は薄く弱い地板のためゼンマイ部分で少し膨らみ気味。まあ問題ない範囲でしょう。 |
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メンテ済部品一式 メンテの済んだ部品一式です。筐体に比べ機械の小ささが目立ちますね。 |
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組み立てから完成 ゴトクに機械を取り付け、文字板を被せ針も取り付けます。それを筐体に入れて足やリン支柱で固定すればOK。リン、裏蓋、ツマミ類など外装部品を取り付け完成です。替わっていた針回しは付属のものが緩く空回りするため、手持ちの同種品に交換しています。 先日紹介の EARLY BIRD と共にこちらも単なるボロじゃん・・・・って感じですが、日本の戦中から戦後混乱期の希少な生き証人です。全体にチープ感は否めませんが、限られた中で当時出来る最大限の努力だったことでしょう。筆者の飾り棚でお気に入り保管品として鎮座することになりました!? |
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新規追加 2010年 8月 1日 | ||||||||