尾張時計/6インチ頭丸掛け時計
新規追加 2010年 9月19日
 
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概略寸法 全高45cm×幅25cm×厚み12cm
文字板 6インチ/オリジナル紙文字板
仕 様 8日巻/半打ち付き渦ボン打ち
時 代 大正期頃
 
尾張時計の可愛い6インチ頭丸掛け時計です。林、加藤、愛知、明治、高野らと並ぶ中京を代表する時計メーカーの一つです。

尾張時計(設立時/尾張時計製造合資会社)は三輪嘉兵衛らにより明治27年名古屋市に設立されます。翌28年、本格的な時計製造を開始し、5年を経ずして年産1万台余りと急成長しました。30年代半ばより同業他社との競争激化や経済情勢に翻弄されながらも、明治39年「尾張時計(製造)株式会社」と改称しあらためて三輪嘉兵衛が社長に就任します。現尾張精機株式会社では資本の関係からかこちらを設立年としています。
大正中期、帝國機械製造株式会社と合併し、この時期に「ハイトリック」と名付けられた機械式ハエ取り機を開発し大ヒットします。戦時中の軍需部品製造の後、戦後は掛け時計の他変わり置き時計でも人気を博しました。

この時計は現在大人気の可愛い6インチ頭丸掛け時計です。アメリカのような大きな家では掛け時計筐体でこんな小さな文字板は考えられないかもしれませんが、小さな日本家屋ではこの大きさでも立派に視認できます。当時から軽薄短小は日本的な得意種目だったのでしょう。
組木に大きな隙もなくパッと見外観は比較的良いものの、振り子室周りを押すと妙にプカプカ浮いてるような感じ。動かず、鳴らず、部品も足らずという機械状態での入手です。調べてみて文字板ガラスなど多少の部品交換はありましたが、概ねオリジナルをよく残しています。振り子室ガラスの「UMAIN」は、尾張自慢の「地球馬」機械が入ってますよ、と言う意味でしょうね。
 
 
入手時外観
入手時外観

それなりの経年色ですが、外観状態はパッと見まずまずです。

目立つ当たり傷や破損はありません。しかし、下写真のようにガラス枠は外れ上述のように機械も動かない状態での入手です。愛知県時計製造業組合のラベルが筐体内のボン台左横にあり、裏面には時計店のラベルが貼ってあります。ボン台縁には「OWArI CLOCK CO」の名があり、なぜかRは小文字と言うかγ(ガンマ)のように見えます。当時よくある書き間違いでしょうか? 筐体内の見える範囲でどこからか剥がれたらしい木片が2個転がっており、軽く揺すると他にもカラカラ音が聞こえます。
 
筐体と入手時機械
筐体と入手時機械

前述のように蝶番から外れた6インチガラス枠は筐体幅より小さく、通常の裏面での引っ掛け固定が出来ないためL字金具へ押し込んで固定するタイプです。振り子室ガラスは内側を見るとけっこう剥がれて見えますが、表側からはそれほど悪くありません。

機械は8インチと共用と思われ、筐体幅一杯に窮屈そうに入っています。振り子室から覗き込んで、機械には振り竿の無いことが分かっていました。普通この状態だとアンクルが勝手にカタカタ動いてしまうのですが、ゼンマイが巻いてあるにもかかわらず動きません。実は良く見るとアンクル押さえが回され、直接爪を押さえつけていました。これを正しい位置に直すとカタカタ動き始め、ゼンマイの駆動力はしっかり伝わっているようです。とは言え、振り竿紛失に変わりなく、現状ではボン動作もせず完全ジャンクと言っていいでしょう。
地板左下には尾張時計お馴染みの地球馬ロゴが大きく誇らしそうです。
 
文字板
文字板

ブリキに印刷された厚紙貼りのオリジナル文字板です。

全体にヒビ、スレ、黄ばみ、剥がれなどありますが、オリジナルとあれば文句は言えません。12時下にほとんど消えかかった状態ながら、地球馬のロゴが何とか分かります。
裏面には昭和36年の修理歴がありますが、時計自身は大正期頃と思われます。5個所の半田付け部に付け直しの跡はなく、化粧枠から一度も外されたことがないようで共にオリジナルに間違いないでしょう。
 
頭丸枠
頭丸枠

機械は頭丸枠を外して取り出します。

頭丸枠は内面左右で大きな木ネジにより筐体側板に固定されています(右下写真)。それを緩め頭丸枠を外し、これで機械が取り出せるようになります。6インチ時計すべてに当てはまる特徴ではありませんが、苦肉の策とは言えそうですね。
 
機械に挟まっていた部品類
機械に挟まっていた部品類

頭丸枠左右の縦木に隠れて見えませんでしたが、開けてみるとご覧のように機械や筐体に振り竿や巻き鍵が挟まっていました。最初のカラカラ音の正体はこれだったようです。機械と一緒に取りだしてみると、特に振り竿は筐体の隙間に入り込み振りベラがくにゃり・・・・^^; これだけ曲がってると修復できるか微妙な感じ。
大きな木ネジは頭丸枠固定用、小さな木ネジは機械の固定用に付いていたものです。
 
機械室周りと機械
機械室周りと機械

機械の下側留めネジは油汚れでほとんどバカになっていましたが、筐体とは1:1の嵌合でオリジナルに間違いありません。3個目の木片も出てきて、振り子室枠部材の固定用に内側から接着されていたものだと分かりました。
 
機械補修
機械補修

曲がっていた振りベラを切れないよう、またクラックなど入らないよう慎重に伸ばします。ローラーを当ててしごいたり何とか上手くいき、所定位置に取り付けこれは問題なし。

ボン打ちは押し上げのレバーが大きく下側に曲がっていて、知ってか知らずかよほど強い力で引っ張られたようです。手動はもちろん針を回しても正常動作せず、ヤットコで挟んで曲がりを直し正しい位置に調整します。
また、ヤケに猛スピードでボン打ちするためダンパーを確認すると、羽根が緩んでほとんど空回り状態。これもしっかりヤットコで挟んで摘んで固定します。

機械自身は裏側の地板各所に後打ちでガタ止め補修がされていました。特に穴が変形していた様子は見られませんが、以前の修理で念を入れたのでしょう。
 
メンテ済機械
メンテ済機械

補修が終わった後注油を行い、普通に動くようになり動作に問題ありません。

今回の補修前にも数カ所の補修が見受けられます。各軸受けのガタ止め追打ちの他、緩んだと思われるアンクル竿を半田付けしたり、ボンの手動送り金も明らかに後年交換されています。
また、雁木車に「7」、地板右下には「427」と刻印が打たれていました。
 
機械裏面
機械裏面

こちらは裏面です。各軸受けに後打ちでガタ止めがされているのは前述の通り。写真は振り竿を付ける前のものです。
 
ガラスガタ止めと枠補修
ガラスガタ止めと枠補修

文字板ガラスは残念ながら近年物に交換されており、ゆらゆらガラスではありません。輪郭がきれいにカットされた交換ガラスではありますが、若干小さめで片側に寄せると反対側に隙間が出来てしまいます。そこでガラスを中央に合わせ、無溶剤タイプのゴム系接着剤を数カ所垂らしてガタ止めを行いました。

また、半田付け不良で外れていた蝶番を付け直します。元の半田を取らずに付け直したので見た目はイマイチですが、通常見えない部分でもあるのでしっかり半田を流しておきました。
 
筐体補修
筐体補修

転がっていた3個の木片は、いずれも振り子室周りの枠板を内側から接着していたものでした。その剥がれていた3個所をタイトボンドで接着し直します。更に上枠板は右の押さえ紛失のため浮いた状態でした。そこで支えとして木片を側板に接着しておきます。これでプカプカ揺らぐこともなくなり問題なし。
 
振り子、巻き鍵、針など
振り子、巻き鍵、針など

入手時の振り子は写真のように黒ずみ、磨いて下写真のようにきれいにしました。オリジナルかどうかは分かりません。
上写真の付属巻き鍵も機械に挟まっていた巻き鍵も、やはりオリジナルではないでしょうね。
針も同様に分かりませんが6インチ用の短い針には違いなく、長針の固定はナット締めタイプです。
 
試運転
試運転

組み直して試運転を行います。

他の写真でも分かると思いますが、頭丸枠を外した筐体はけっこう反っていました。鼓状の歪みはレンズの収差ではありません。
ともかく、動作上目立つ問題はなくなり、時計もボンも正常動作するようになりました。ゼンマイを巻いて10日前後は動き、通常使いなら8日巻きとしてなんら問題ないでしょう。
 
 
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