アメリカ/SETH THOMAS(セス・トーマス)/OG(ogee)置き時計 | ||||||||
最終更新 2009年 4月20日 | ||||||||
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アメリカ最古の量産機械時計メーカーとして名高い SETH THOMAS(セス・トーマス)の、「O.G.(ogee=オージー)
Clock」と呼ばれる重錘引きの大きな置き時計です。このタイプの多くは毎日巻きですが、この時計は珍しい8日巻きです。 1814(13?)年創業の SETH THOMAS (詳しくはこちら/英文) は、1785年生まれの創業者の名がメーカー名となっています。その創業者 Seth Thomas さんの生まれた頃はモーツァルトの全盛期、創業の頃はベートーヴェンが飛ぶ鳥を落とす勢いの頃です。それだけでなんだか歴史の重さを感じちゃいますよね。アメリカ7大古時計メーカーの中でも群を抜いた歴史を誇り、国内では19世紀末から20世紀初めにかけての OFFICE シリーズに代表される中型掛け時計や、12インチの大型時計で有名です。時計のデザイン的な派手さは他の時計メーカーに譲るとして、セス・トーマスは特に機能面を追求した元祖的印象が筆者にはあります。ちょっと玄人ウケしそうな時計会社って感じかな? 最近でも SETH THOMAS の名を冠した電気(電池)時計などあるようですが、古時計ブランドとしては1920年代頃まででしょうか? OG時計は日本では掛け時計に比べほとんど馴染みがありません。欧米ではいわゆるマントルクロックの一種として、暖炉の上や近くの卓上・棚上に置く時計として大変普及しました。欧米での暖炉は極々当たり前の備え付け家具みたいなものでしょう。その上の室内でももっとも目立つスペースを何で埋めるかは、主の趣味性や時には財力の象徴であったに違いありません。そんな欧米でも19世紀と言えばまだまだ時計は高級品だったはず。その点OG時計は単純な弁当箱型筐体で作りやすく廉価ででき、その大きさは一見主の権力と財力を表すようでもあり・・・・、ってことで、ちょっと大きな時計が大いにもてはやされたとしても想像に難くありません。 マントルクロックの中にはゴテゴテに飾り立てた時計も少なくありませんが、このOG時計は大型ながら比較的廉価とあっていたって作りはシンプルです。ワンポイントのガラス絵以外は実用本位に機能を追求した筆者好みの時計です。 ちなみに、このタイプは20世紀初頭には姿を消したため、現存する多くは19世紀の時計となるようです。 |
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入手時外観 パッと見の外観はなかなか立派です。 画像のように塗装ツヤも十分残っており、塗り直された様子もなくオリジナル仕上げのままと思われます。パッと見で目立つ傷みはありません。もちろん、1世紀以上を生きてきた古時計ですから、よくよく見れば稜線部の角を中心に突板の剥がれや割れなどあるんだけどね。 前面上部にスクウェアデザインの文字板と下部にガラス絵というこのタイプ王道のデザインで、ガラス部分全体が扉となっています。裏面には多数の傷こそ有れ、いずれも浅い擦れ傷で破損はありません。良くある修理歴などの書き込みもまったく無く、経年からすれば十分立派なものでしょう。 この時計は動作品での入手でしたが、当初数時間程度でたびたび止まっちゃいました。 |
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天面と底面 天面は色塗りされただけでニス塗りは無くくすんでいます。両側には左右の重錘に繋がるワイヤー掛けの定滑車となる木製プーリーがあり、元々は何らかのカバーがあったようです。 底面は後年付けられたと思われる真鍮製円錐型ピンポイント接地の鋲が四隅に付き、それ以外のネジ穴は筐体枠の固定用と思われます。こちらも以前の補修により画像のように、大きなマイナス木ネジで留め直されていました。 |
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ガラス絵 扉下部にガラス絵があります。この鳥はヒバリでしょうか? 絵部分は非常にきれいに残っており、剥がれや補色はありません。しかしバックの白色部はオリジナルの剥がれが激しく、以前はほとんど透明ガラスと化していたようです。後年、右写真のように裏側からオリジナル塗装の上全体に補色してあり、これはこれで補色塗りして正解でしょうね。出来ればもうちょっと色合わせしてほしかったけど・・・・^^; |
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文字板 ブリキにペイントのオリジナル文字板です。 画像で分かるように細かくヒビ割れ、小さな剥がれが文字板全体に広がっています。それでもオリジナルの内容は良く保持しており、19世紀という年代を考えればまずは十分な方でしょう。ロゴはありませんが社名と、アメリカ製であることが記入されています。板が歪むとそれだけでポロポロ剥がれてしまうため、油性ツヤ消し透明スプレーを吹き処理しました。 文字板裏に修理歴など記入はありません。 |
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機械 まるで新品のような大変美しい機械です。極めて状態良く傷みや欠点は見つけられません。傷一つ無いという感じです。 ヴァイオリン型時計のような優雅に湾曲した地板の大きな機械で、とても1世紀を超えてきた機械とは思えません。力のかかる、あるいは動きの激しいホゾ穴もほとんど磨耗はなく、これ以上ないくらい大変いい状態です。きれいな真鍮色も前オーナーが丁寧に磨いてくれたのでしょうか? ご覧のような重錘引き機械です。左右の通常ゼンマイが付く歯車からロープが上部に伸び、天面の定滑車を介して左右にぶら下がる重錘に接続されています。巻き鍵で巻くのは同じですが、こちらはゼンマイの替わりにワイヤーを巻き取ります。先に付いた重錘の位置エネルギーが駆動力となる訳ですね。 重錘引きの特徴は何と言っても終始一定の駆動力が得られること。ゼンマイのように初めは強いけど緩むとだんだん弱くなると言うことがありません。したがって、時計としてより正確な時を刻むなら重錘引きは機械式時計の理想型とも言えそうです。 しかしながら、なにぶんスペース効率の悪さ(したがって大型になる)と、取り扱いが面倒(重く不安定な重錘がぶら下がる)なことはいかんともしがたいところ。後に動滑車の利用など考案されますが、どちらかというとそれらは意匠&デザイン優先です。やがてゼンマイ時計に淘汰されるのは必然的な運命でした。斯くして重錘引き時計は一部の高級時計や鳩時計など、高級感や意匠を重視した外観的面白さに重きを置いた時計に引き継がれます。 |
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ラベル ラベルは多少の欠損こそあれ、年代からすれば十分良く残っている方でしょう。 「THOMASTON, CONN.」という記述から、セス・トーマスの時計で有名になったプリマスハロー町がその功績故、1865年にトーマストン町と名前を替えて以降の時計であることが分かります。 |
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重錘と振り子 この種の中でも珍しい8日巻きとあって、かなり大きな重錘です。左側小さい方がボン鳴り用で約3.3kg、右側大きい方が時計用で約4.1kgあります。 振り子は当時の掛け時計用振り子と同じように見えます。引っ掛け部分の表面を磨きはじめましたが思い直してやめました。動作中に見える振り子じゃないし、経年のくすみもいいかと。この振り子がオリジナルかどうかは資料がなく分かりませんが、特徴はセス・トーマスの当時物と一致していると思います。 |
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試運転 1回の巻き上げで丸8日間は調子良く動きます。 前述のように駆動力が一定なので、1日30秒進むとすると1週間後にはちゃんと3分30秒進んでいます。まずは動作に問題ありません。 当初の止まっちゃうという原因は単純で、振りの中心が正しく鉛直方向になっていなかっただけでした。試してみると右側に6mmほどの下駄を履かせた状態、つまり左に少し傾けた状態でピッタリです。これはアンクル竿という振り子の振れ方向を支持する部材の曲げを調整して合わせます。最後に軸受けとなるホゾ穴や雁木車周りに注油を行いました。 渦ボンの音はセス・トーマスの時計に共通の「ボ〜ン」よりも「ビ〜ン」に近い、いい意味で昔風の渋い大きな音です。 |
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新規追加 2009年 3月23日 | ||||||||