カサブランカ   No.03  980701
 
映画界に「絶世の美人」と形容詞の付く女優は多い。そして50〜60年前なら誰もがこの人と思ったのがイングリット・バーグマンである。スウェーデン出身の女優で、デビュー当初は美人というだけのお飾り女優的存在だったらしい。その彼女が自国のいくつかの映画に出演を重ねた後、メジャーデビューともなった、一連の記念碑的映画のひとつが「カサブランカ」である。
この当時の彼女は気品のある非の打ち所のない美人で、「彫像のような」と例えられる雰囲気が映画からも伝わってくるようであった。同時期の「誰が為に鐘は鳴る」で演技派としても認められ、長いブランクの後「追想」ではアカデミー賞をとるなど、彼女の全盛期がここから始まるのである。
「昨日は何してたの?」
「そんな昔のことはわからない」
「今夜はどうするの?」
「そんな先のことはわからない」
こんな台詞をどこかで聞き覚えのある人も多いことだろう。ハンフリー・ボガート(ボギー)のこんなキザな台詞がカッコイイと思えた、古き良き時代の映画なのである。
ついでに、「君の瞳にカンパイ」などとも言っている。
今ならほとんどコメディかコントの台詞である。「いったい誰が脚本書いたんだ?」ってなことになりそうなクサイ台詞なのだ。しかしこれがボギーとバーグマンだったら許せてしまうのである。
スタンダード音楽好きの方ならドゥーリー・ウィルソンの歌う、「時のたつまま」の弾き語りでもお馴染みかもしれない。
内容は、戦争のためヨーロッパを追われ、カサブランカに逃れた元英雄で流れ者の酒場経営者(ボギー)が、色々あった末に元恋人(バーグマン)を救うという、いたって単純明快なもの。
先の台詞や曲と共に、ラストシーン夜霧の空港で、トレンチコートに身を包み別れゆく姿など、名場面というと必ず出てくるところである。
この当時ボギーはすでに大スターであったが、バーグマンは前述のようにほとんど無名であった。ちょうどオードリー・ヘップバーンが「ローマの休日」に主演した時のように、監督のマイケル・カーティスにとって大抜擢のバーグマンであったはずだ。確かほんとはローレン・バコール主演で撮るとこだったのだが、急遽バーグマンに替わったように記憶している(他の映画と混同しているかもしれないが)。
いずれにせよ彼女にとって勝負の映画であったことに変わりなく、結果的に見事そのチャンスをものにした訳である。
70年代には久々に出演した映画「オリエント急行殺人事件」でいわゆる老け役を演じたのだが、老いても(そう言ってはまだかわいそうな歳だが)どことなく漂う気品を感じたのは私ばかりではないだろう。
 
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