旭川あたりから望む連なった山々の姿は、良く見る普通の連山と大差ない。
それは奥羽山脈や三国山脈と同じく、北海道を東西に分ける脊梁山脈(分水嶺)の一部である。
それが他とちょっと違うとすれば、北海道の山であること?
大雪山と名の付くピークはない。
それは旭岳を主峰としたトムラウシ山付近まで一帯の、いわゆる中央高地などと呼ばれる火山群の総称である。
御鉢平は言うに及ばず、旭岳、白雲岳、トムラウシ山などにははっきりした火口もある。
中でも旭岳は地獄谷と呼ばれる爆裂火口を形成し、現在も一部で盛んに噴煙を上げる活火山である。
これらの山々はいずれも幼年期から脱しようとする成長途上の山岳地形を示す。
その様子は、たとえば忠別川上流の浸食地形を見ただけでも疑いの余地はない。
伸びやかな溶岩(火山性)台地上の高原に沢が深く段丘となって食い込む地形である。
やがてこの山々は浸食が進みグランドキャニオンのような深い渓谷となり、更にはアルプスのような峻険な山へと変化していく。
長い長い時間を掛ける浸食輪廻を人は見ることが出来ない。
しかし、山頂や稜線上から垣間見られる谷筋からは大いに想像をかき立てられるだろう。
余談だが北海道はこの種の地形(必ずしも火山とは関係ない)が数多い。
試しにGoogle Earthで宗谷岬周辺や根室半島など覗いてみよう。
まるっきり教科書通りの浸食地形にびっくりする。
主峰旭岳は旭岳温泉からのロープウェーを降り、健脚者ならわずか3時間足らずで往復可能な山である。
同じく黒岳も歩行時間2時間と掛からず往復可能だろう。
北海道一の、本州なら3000m級の高峰に相当する山へ、天気が良ければ空荷に運動靴で登れちゃう手軽さ。
それは前述のような山岳地形がなせる技でもある。
ことの是非はともかく、その種の誘い文句は有名ガイドブックにも多い。
関東からなら早朝発夜間着のジェットで旭川空港へ往復し、日帰りで旭岳登山なんてことも不可能ではない。
それでも筆者のような関東人からは今でも、利尻山や宮之浦岳と共にあこがれの山の地位にゆるぎはないのだが。
山頂からたおやかな起伏を見せる雄大な展望と、十勝岳に続く山々の見事な連なり。
加えて、時には遠く海まで見渡せる展望は下界からは決して分からない。
遠く横から見る連山と、その中に入って見るのとではまったく異なるものだからだ。
それは登った者しか知らない特権である。
願わくばピーカン狙いで登りたいものだが、たとえ荒天だからと悔やむことはない。
目を落とせば荒れた火山性土壌などもろともせず、大群落となった多くの高山植物に目を奪われるだろう。
五色ヶ原や高根ヶ原で盛期の高山植物に遭遇した登山者=大雪山性高山植物中毒症確定!となる。
もちろん、涸沢(穂高岳)と並び称される紅葉も良く知られるところ。
冬の厳しさとて言うまでもないだろう。
そのスケールは山中に飛び込まないと分からない。
登っていい山、大雪山。
登った者にだけかいま見せる姿。
それは登った者しか知らない特権である。 |