2002/3/1  生分解性プラスチックのお話U
 
20.天然高分子系生分解性プラスチック/澱粉系その1
 
代表銘柄
  マタービー/日本合成化学(伊:ノバモント)
  ノボン/チッソ(米:ノボン・インターナショナル)
  エバーコーン/日本コーンスターチ
  プラコーン/日本食品化工
  セルグリーンPC−A/ダイセル化学工業
  ルナーレ/日本触媒(米:プラネット・ポリマー・テクノロジー)
  ドロン/アイセロ化学
  など
 
天然高分子系生分解性プラスチックとは、「天然高分子である澱粉、キトサン、セルロース、タンパク質などを主原料とし、それらの変性や混合処理を行った生分解性プラスチックの総称」である。平たく言うと、澱粉などに代表される天然高分子を化学的に諸々加工し、更に混ぜ合わせたりして作ったプラスチック、と思っても良い。
天然高分子系プラは生分解性プラの中では成形性に優れるものが多く、且つ、価格的にも比較的安価という特徴を持つものが多い。この項ではその中から大きく「澱粉系」と「セルロース系」に分け、まずは澱粉系プラの特徴より話を始めてみよう。一般に生分解性プラスチックと言えば多くの方は澱粉を思い起こすと思われ、実際、澱粉系は前回の微生物産生系同様この業界の草分けとも言っていい歴史を誇っている。
尚、上述の代表銘柄中、上から4番目までが澱粉系生分解性プラスチックである。
 
澱粉は元々それ自身では流動性が無く、たとえば水に溶かし熱を加えゲル状として初めて可塑性を持つようになる。つまり一般の澱粉そのものではプラスチックとしてなかなか使用出来ない。そこで変性処理という化学的な裏技(って言うより表技?)を駆使し、更に適当な他の生分解性プラなどブレンドさせたりすることが多い。マタービーやノボンがそのタイプ。対して同じ澱粉系でも、変性処理に主眼を置いて開発されたのがエバーコーンやプラコーンである。各々開発企業の弁を聞けば「ごもっとも」と納得するが、性質や特徴はやはり一長一短。ここでは射出成形という筆者の専門から、豊富なグレードを持つマタービーやノボン(以下澱粉系プラと言う)について、その性質や加工性(成形性)及び金型について話を進めてみよう。
澱粉系プラは黄色みがかった白色またはベージュ色の不透明プラで、ペレット状態ではやや湿り気を帯びている。この水分は可塑剤としての役目も持つため非常に重要であり、グレードにより指定された含有量が高すぎても低すぎてもいけない。もちろん成形前乾燥は不可である。実際、成形の際も一旦開封した材料はその場で使い切ることが望ましい。尚、この水分量はグレードによって10%を越えるものもあり、パージ中など水蒸気となって盛大に成形機から吹き出すこともあるのでびっくりしないでほしい。
ペレット状態では若干腐敗の始まったご飯のような臭い(酢酸臭?)のするプラも、成形中は餅を焼くような香ばしい臭いがする。後に述べる乳酸系プラもそうだが生分解性プラのこれら臭いは、従来プラから「まったく異質の材料」であることを強く実感出来るだろう。
澱粉系プラの製品を一見した様子はポリプロピレンやABSのような感じで、一般グレードでは半硬質系プラと言ったところである。但し、一般に澱粉系プラは成形後の完成品においても水分を吸収しやすく、物性はその環境によって大きく左右されることがある。吸湿し水分が多い場合はしんなりしっとり、少ない場合は固いが反面靱性が劣るようになってしまうのである。ここでも餅を思い浮かべていただければニュアンス的には分かりやすいだろうか。この吸湿性は乾燥した冬場と湿潤な梅雨時との違いでも、大きな変化となって現れる場合がある。
澱粉系プラは微生物となかなか仲良しである。成形物の切れ端をその辺の土中に1〜2週間も埋めておけば、すぐカビなどの微生物が取り付き、掘り起こせば斑模様となってることだろう。この微生物の食いつきやすさの一因には水と馴染みやすい吸湿性も関わると思われ、物性変化という短所もここでは長所となって現れるようである。
但し、筆者の経験的にはその後の変化に乏しく「食いつきやすいが進行はイマイチ」、という矛盾した面も報告せざるを得ない。
前回のバイオポール同様、澱粉系プラもその歴史に裏打ちされた豊富なグレードを誇っている。射出グレードはもちろん、押し出し、ブロー、フィルムなど、様々な成形加工法に対応してきた。
更に、一部汎用プラとのアロイ材ではあるものの、緩衝材などとして使用される発泡グレードも最近は良く見かけるようになってきている。家電品やパソコンなどの緩衝材としてフィルムに包まれた発泡材や、袋に入ったマシュマロのようなバラ緩衝材を見かけた方も多いだろう。あの一部は澱粉を主成分にポリエチレン(PE)などを一種の「つなぎ」として利用した「崩壊性澱粉系プラ」の発泡材である。尚、発泡スチロールに替わるこの緩衝材市場は大変大きく、最近は澱粉100%の発泡材研究も盛んとなってきている。
 
次回は成形性について。
 
つづく
 
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