2002/4/1  生分解性プラスチックのお話U
 
21.天然高分子系生分解性プラスチック/澱粉系その2
 
引き続き澱粉系について、具体的に成形性を中心にその注意点について話を進めてみよう。
澱粉系プラは生分解性プラの中では比較的成形加工の優しいものが多い。変色や焼き付き・計量など注意すべき点は多々有るにせよ、よほど無茶をしない限り(知らないがため結果的に無茶となることが多いのだが)大怪我をすることは少ないだろう。但し、これは成形作業がし易いという話であり、良品が簡単に得られるという意味ではない。
澱粉系プラの一般射出グレードは汎用成形機でも十分成形可能で、微生物産生系のように機械を選ぶことは希である。
 
1.温度特性
成形温度域は概ね150℃〜200℃程度とし、180℃を中心に設定すれば大きく問題となることは無いだろう。ここでも滞留時間に関係して加熱筒後部温度は上げすぎないよう注意し、150℃前後を中心としたい。澱粉系プラは一般に温度履歴が長いと大変変色しやすく、加熱筒内の滞留時間はここでも可能な限り短くする。見当としては最大でも10分以内、理想的には5分までとしたい。ナチュラル色のプラが変色すると茶色くなり、粘りが無くなると共に成形品の靱性も極端に落ちる。したがって成形機の射出能力も、やはりキャビティ容積に対して概ね2倍以下とした方が安全だろう。
2.分解と焼き付き
高温・長時間の放置、または後に述べる計量設定の不具合等により、澱粉系プラが分解するとこげ茶色の排泄物のようになり、パージしてもなかなか抜けないことがある。こうなってしまうと、後の他プラの成形時にも炭化したような黒い異物として混入することが多く、後々やっかいな思いをすることになる危険性大である。もちろん、透明や薄色物などを扱う成形機でのトライは避けた方が良い。
また更に前述の状態が悪化すると、澱粉系特有の焼き付きによりスクリューを破損しやすい状態となることがある。澱粉が糊(接着剤)として固まった様子を想像すれば理解しやすいだろうか。このような場合応急的には加熱筒を100℃以下の低温に下げ、水を入れてしばらく待った後、成形温度まで徐々に上げて前進後退を繰り返すと良い。更にその後PS、PPなどでパージする訳だが、一度スクリューに絡み付いてしまった澱粉系プラは滅多なことでは完全に抜けないので、後で後悔しないためにも温度設定などには十分注意しよう。尚、このような場合、根本的には分解清掃が望ましいことは言うまでもないので念のため。
3.流動性
澱粉系プラの流動性は比較的良好で、汎用プラで言えばABSなどと同等かやや優れる程度と思って良い。材料中に含まれる水分は可塑剤としての役割も持つため、放置して乾燥したりすると流動性に影響を及ぼすことがある。したがって一度封を開け使い始めた材料は、可能な限りその場で使い切ることが望ましい。尚、やむなく途中で保管する場合は乾燥または吸湿しないよう、ガムテープなどで厳重に密封しておくこと。
4.計量
澱粉系プラは計量が不安定となりやすい傾向にある。これは含有水分が加熱筒内で水蒸気となり、大きな蒸気圧となってスクリューを押し戻すことによると思われる。これにより保圧から計量に切り替わるタイミングでスクリューが大きくバックしてしまい、特に射出量の少ない(計量の少ない)成形では設定値を超えてしまい計量不能となることもある。また計量後の冷却中にも蒸気圧によりスクリューが自然とバックし、時には計量値の2倍以上となることも珍しくない。このような状態の射出では大量の水蒸気を吹き出すこともあり、極めて成形異常を起こしやすく注意してほしい。成形機の型開き動作中など、パンッという破裂音と共に冷えたプラをノズルから水蒸気と共に吹き出すことさえある。対策として加熱筒温度を下げることはもちろん、計量後加熱筒全体をバックさせる(ノズルを金型スプルーより離す⇒但し材料漏れにより不安定を助長させることもある)、サイクルを早くする等の対応をしてみよう。
このような理由から、一般に澱粉系プラの計量では定量供給が可能となるよう背圧は高めに設定し、且つスクリュー回転数は遅めとする。ここで回転数を上げ過ぎると、上述の焼き付きが発生する原因となる恐れもあるので注意したい。加熱筒に実温モニターの付いた成形機では局部的な温度上昇がないか、常に監視するくらい注意を怠りないように。
5.固化と取り出し
澱粉系プラも固化が遅く、必要以上に保圧を上げたり長時間掛けたりするとバリの発生原因となることがある。また、取り出し時Eピンが製品を突き抜けたり、白化または凸凹となりやすく注意が必要である。
更に、前述の水蒸気を大量に吹き出すような射出状態では、金型内にその一部が糊のようになって残りやすい。この結果、製品が強力に金型へ貼り付いてしまい、取り出し不能となってしまうこともある。澱粉系プラの成形ではそれでなくても金型表面のベタ付きは徐々に進行するので、量産時には時々拭き取ったり確認する作業が必須となるだろう。それが樹脂特性でもあり根本的な解決は難しいが、水蒸気を吹き出さない加熱筒温度設定とし金型温度を若干高めに設定することで、ある程度確認期間を延ばすことが可能となる。尚、取り出しにはエアーの使用も有効であるが、冷却が中途半端な状態ではそのエアー圧により製品薄肉部が他と比べ破れやすいことも付け加えておこう。
6.金型冷却
固化の遅い澱粉系プラ成形時の金型温度は一般に低めに設定することが多く、概ね20℃から40℃程度が適当と思われる。但し、必要以上に低い状態ではやはり水蒸気の一部が残る前項の原因ともなり、取り出し不能となりやすいので注意したい。
7.そり
澱粉系プラは成形後に著しいそりの発生することがあり、精密製品はもちろん大型製品への使用にも注意が必要である。この原因も含有水分とその変化が関係しているものと思われ、やはり金型温度が低い、または局部的な高低により顕著となりやすい。寸法安定性など残念ながら望むべくもなく、条件によっては5%前後の収縮も珍しくないだろう。組み立て物などでは試作型等にて、特に冷却回りの検討や時間軸での変化を十分確認しておくことが望ましい。
8.材料パージ
成形後のパージ作業は完全に行うようにしたい。これは残留物が少しでもあるとすでに述べてきたように、その後の成形に異物として極めて出やすい傾向があるためで、これをおろそかにすると後々後悔することとなる。通常パージはPS又はPPなどが良いだろう。
9.その他
  a.成形後は金型が錆びやすいので各部に防錆剤を十分塗布しておく。
  b.同様に成形機回りも錆びに注意しよう。
  c、成形中はかなり香ばしいお菓子のような臭いがするが、好奇心で食べようなんて思わないこと・・・^^;
 
次回は金型製作上の注意点について。
 
つづく
 
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