30.化学合成系生分解性プラスチック/乳酸系その2 |
乳酸系生分解性プラスチックはその透明性や剛性から前回述べたように、現時点におけるPBS系と並ぶ生分解性プラスチックの雄である。特に射出成形の分野における乳酸系プラは従来、雑貨など汎用品に限られていた生分解性プラスチックの世界から、機能性部品への展開まで視野に入れようとしている。 今回はそんな乳酸系プラの、難しいと言われる成形性についてお話ししてみよう。 |
1.温度特性 成形温度域は概ね170℃〜210℃程度とし、190〜200℃前後で設定すれば大きく問題となることは無いだろう。 生分解性プラスチックの中では比較的高温でも安定性に優れ、220℃付近まではことさら神経質になることは無い。しかし後に述べる冷却や固化上の問題があり、あまり高温に設定しても利点は少ないと思われる。上記温度内であれば加熱筒内での長時間滞留でも分解に至る可能性は少なく、異物や水分の混入さえ無ければまず問題となることは無い。PBS系と同じく、この熱的安定性は生分解性プラスチックの中では大きな利点である。 |
2.計量 乳酸系プラは計量時に計量不能の異常を起こす場合がある。 初期の乳酸系プラは計量口付近でスクリューの伝導熱により材料が溶けてしまい、まったく計量できないと言う笑い話のようなことがあった。試作のような比較的短時間のトライでは上手くいったが、量産になったら途中から計量できなくなったという話も良く聞いたものである。現在では改良されそのようなことは希だろうが、いずれにしても注意を要する内容には違いなく、ホッパーには一度に大量の材料を投入しない方が良い。可能ならば成形機スクリューの計量とは別に、定量を供給する「材料供給装置」などあれば万全だろう。 |
3.流動性 生分解性プラスチックの中ではもっとも悪い部類に属する。 とは言えその程度としては標準グレードのPC(ポリカーボネート)並と思って大差無いだろう。微生物産生系やPBS系と違い溶けた状態もドロっとしたもので、水飴のようにいかにも流れは悪そうに見える。しかしこの流動性の悪さは射出時に力がいるという意味で、実際の成形場面では後に述べる固化の遅さを考慮すると、「思ったより良く回る」という印象を受けるかもしれない。当たり前と言えば当たり前なのだが、射出圧力のアップと流動長が実に素直にリニアに変化するという感じである。比較的バリも出にくくある程度高圧でも成形可能なので、充填不足に悩むことは少ないかもしれない。 |
4.ボイド、ヒケ、ストレスクラック 乳酸系プラは厚肉部でのボイドやヒケなどが非常に出やすい。 その様子や出方はPCとやや似ているが、結晶性であるこちらは更に輪を掛けて酷いと思って良い。特に肉厚が極端に変わる段差のある部位やボスの裏側など、成形条件に余程注意をしても完全に止めることは難しいかもしれない。成形条件上これらは一般に大きめのゲートで保圧をしっかり掛ける対策が為されるが、乳酸系プラはストレスにもあまり強くは無く、こちらの面でも注意が必要となる。保圧設定は1圧2圧3圧などと多段階に設定し流動時・固化時のストレスを上手く抜く必要があり、更に根本的対策として可能な限り肉厚を一定とする製品設計上の対応が不可欠である。 |
5.金型冷却と固化 3項・4項などとも関係し乳酸系プラは固化が遅いプラスチックとしても、生分解性プラスチック中(ってことは全プラスチック中でも?)最悪の部類かもしれない。 特にガラス転移点が70℃近辺と低いことから金型温度には極めて敏感である。事実上40℃以上の金型温度ではあまりに固化が遅すぎてサイクルタイムアップとなり、50℃以上では1分2分の冷却時間を掛けても固まらないことさえ多い。時には型開きと同時に可動・固定両型間で糸を引き、形にならないどころかゲル状のままということさえ珍しくない。結果的に型温は低めに設定することとなるが乳酸系プラは結晶性でもあり、あまり低すぎては本来の性能を発揮しないばかりか前項のストレス発生の危険性も高い。このように成形上の金型温度設定とその安定化には、最大限の注意を払うべき課題である。 尚、筆者の経験上からはPBS系と同様に人肌程度が適当と思われるが、サイクルタイムに直結する問題なので各々製品に合わせて十分検討していただきたい。 また、固化の様子により収縮率が大きく変化することも忘れてはいけない。 |
6.取り出し 乳酸系プラもやはり金型に密着しやすい傾向が顕著である。 一般には結晶性プラでもありそれほど強固に密着するとは思えないのだが、一筋縄でいかないのが生分解性プラスチックというものだろう。元々強靱なプラスチックでもあるためついつい無造作に突き出しがちだが、これまで述べてきたようにストレスを嫌うプラスチックであることも忘れてはいけない。ちょっとでも無理があるとジャリジャリと派手な音を立てて抜け、製品に目に見えないストレスを残すこととなりかねない。そのような製品はやがて時をおいてクラックなど発生する可能性もあり、成形条件のみならず金型側の対応も十分考慮しよう。 |
7.材料乾燥 乳酸系プラも成形前乾燥が必要で、およそ60〜70℃前後4〜5時間程度を基本としたい。 耐熱性に劣るプラスチックのため急ぎの場合でも高温に曝すことは好ましくなく、除湿型の乾燥機があれば好ましい。成形作業自身は乾燥無しでもほとんど問題なく出来るが、ラクティなど加水分解するものではより早く分解を起こすような傾向があった。いずれにしても吸湿した状態は好ましく無く、やがて時を経て物性を落とす可能性が高い。 |
8.材料パージ 成形後のパージ作業は一般に行われる汎用プラによるもので支障無い。知る限りでは特に仲の悪いプラスチックがある訳でもないので、PE、PP、PSなどで問題ないだろう。 |
次回は金型製作上の注意点について。 |
−つづく− |
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