31.化学合成系生分解性プラスチック/乳酸系その3 |
乳酸系生分解性プラスチックについて金型製作上の注意点をまとめてみた。 乳酸系プラはそれ自身単独でプラスチック材料として使用されるほか、最近ではPBS系など他の生分解性プラスチックとブレンドしたり、ファイバー類・無機類などを添加したりと盛んに試みられている。言うまでもなく潜在能力と可能性の高さから長所短所を補い合うためだが、ここでは単独で使用されるナチュラルグレードの金型について述べていこう。 |
1.コマ割り構造 乳酸系生分解性プラスチックはそれ自身、本来は特にバリが出やすいというプラスチックではない。 しかし、プラスチックそのものの固化スピードが生分解性プラスチック中でも1〜2を争うほど遅いのが災いしてか、同時にボイドやヒケが非常に出やすい特徴を持つ。したがって成形機側の成形条件、特に保圧設定を強くせざるを得ない場合が多く、成形条件の如何によっては想像以上に目立ちやすくなることがある。製品の輪郭(エッジ部)や外観部品で直接手などが触れる部位、また食器などで口が触れるような部位にはコマ割りの方法など特に注意が必要となる。 |
2.エアーベント 乳酸系生分解性プラスチックは特にガスの多いプラスチックではない。 前述のコマ割りとも関係するのだが、通常設けられるエアーベントで問題となることは少ないと言えるだろう。成形条件的に高圧で比較的ゆっくり押し出すことの多いプラスチックのため、ヤケの心配も少ない方である。 |
3.ゲート 各種ゲートとも可能であるが、一般的にはサイドゲート、タブゲート、オーバーラップゲートなど、比較的大きめで保圧制御のし易いゲートが望ましい。 小型製品・小型機器の外観部品では制限ゲート(ピンゲートやサブマリンゲートなど)も可能だが、そのような製品では出来る限り肉厚を一定にするなど製品設計上の対応が不可欠である。 |
4.スプルー&ランナー スプルー及びランナー断面積は一般的に用いられる汎用プラと同等で差し支えない。 固化の遅さを考慮すると小さめ(細目)とすることも可能だが、流動抵抗が大きいことも事実であり、無用な圧力アップは好ましくないだろう。前述のゲート形状と共に、乳酸系生分解性プラスチックが残留応力に弱いことも考慮に入れておかなければならない。 |
5.温調・冷却 生分解性プラスチックの成形金型すべてに共通することではあるが、金型の温調・冷却方法とその配管方法は成形品品質はもちろん、特に経済性については命運を握ると思って良い。暖めるにしろ冷やすにしろ、水穴配管はキャビティ各部へ合理的に配置することはもちろん、忘れてならないのがスプルーやランナーに対しての処理である。 一般にホットランナーや特殊なプラスチックでない限り、スプルーやランナー部への温調はあまり意識しないと思われる。しかし、それらは製品自身よりも肉厚であることが普通で、特に固化の遅い乳酸系生分解性プラスチックにあっては、その対応の有無が成形サイクルに極めて大きく直接的に影響するのである。したがって製品部はもちろん、スプルーやランナーにも取り巻くように冷却管を配置する。これは「なるべく」という希望的意味ではなく、必須条件と考えたい。 |
6.突き出し 乳酸系生分解性プラスチックは金型に密着したがる傾向が強い。 根本的にはやはり固化の遅さとも関係するのだが、密着の程度はPCなどより更に悪いレベルと思って良い。特に深い製品形状の物では各部とも少なくても1°以上のしっかりした抜きテーパーをとり、リブ周りなどには大きめの突き出しピンを複数配置するようにしたい。また、板物やポット状の製品ではキャビ・コア双方からのエアーブローも考慮に入れておこう。他項でも再三述べているように、そのような製品では筆者の経験上、これがもっとも効果的且つ簡単な方法であったことを言い添えておく。 尚、特に結晶化の浅い状態ではある程度伸びが生ずることもあり、突き出しピン跡が凸凹になりやすいので注意しよう。 |
7.アンダーカット 硬質系の乳酸系生分解性プラスチックではあるが、決して脆いプラスチックではない。 通常、PCやABS等で行われる程度のアンダーカットには何ら問題なく、キャビ・コアのいずれか一方が逃げていれば無理抜きにも支障ない。但し、応力集中によるクラックなどやや発生しやすい傾向もあり、程度問題であることを忘れてはならない。 |
8.その他 a.金型材質は特に選ばないが温度制御の行いやすい材質が好ましい。 b.インサート成形やアウトサートの圧入などでも、前述のように応力集中によるクラックが発生しやすく注意が必要。 c.成形収縮率は1.5〜2%前後を基本とするが、組立物等の場合は必ず試作型で確認すること。 |
次回からは「PCL系生分解性プラスチック」を予定している。 |
−つづく− |
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