2.今後の研究課題・問題点 
最終更新 2007年9月5日 
 
現状の生分解性プラスチックにはまだまだ樹脂としての不安定要素、又は研究課題が多く残されているのも事実です。
研究者の一員としてお恥ずかしい限りですが、残念ながら当社では手の及ばない代表例を下記に、問題提起としてあえて掲載することといたします。
やがて出現するであろう更なる研究者への呼び水とでもなれば幸いです。
 
 
(1) 材料ロットによる樹脂特性の変化
生分解性プラスチックの多くは生まれて数年の小学生です。
まだまだ製造方法もプラント設備もこなれていません。
世界をリードする日本の生分解性プラスチック開発・製造技術なのですが、それでも大きい設備で年間1000トンオーダー。
全量足しても汎用プラスチックの0.1%前後の量でしかありません。未だ研究プラントの域を出てないと言っても過言ではないでしょう。
したがって製造ロットごとに樹脂特性の大きく異なることもまれではなく、たとえ同ロットでも袋を開けて実際に成形してみないと条件設定の定まらないことが多々あります。
確かに生分解性プラスチックの多くは汎用プラスチック成形機でも成形可能です。
しかし、残念ながら現状における加工性は、「樹脂メーカー各社が言うほど容易い成形ではない」とだけ申しておきましょう。
 
 
(2) 分解中又は分解後の環境への影響 
生分解性プラスチックは土中や水中の微生物により分解され、最終的に水と二酸化炭素となって大気中に放たれることは先に述べました。
さて問題はその間の分解過程です。
生分解性プラスチックが微生物により分解される時、一般に固形物である樹脂がいきなり水と二酸化炭素に変化する訳ではありません。
それは「機械的崩壊−−生物学的(化学的)分解−−水と二酸化炭素の発生」という過程を辿ります。
機械的崩壊 
主に外部からの機械的応力、紫外線、熱、酸化、時に加水分解等の化学的作用も含め物理的に、より細かな状態に変化することです。
肉眼で見えなくなる、又は土などの粒子と判別できなくなった時、一般には「分解した」と認識されるでしょう。
しかし、ここまではまだ単に細かくなったに過ぎず、化学的にはまだプラスチックそのものです。
但し、細かくなる=表面積が増すということになり、機械的崩壊を更に進めると共に微生物が餌として利用する場合、より好ましい状態、平たく言えば「食い付きやすくなる」ことを意味します。
生物学的(化学的)分解 
微生物により餌として利用された結果その酵素などの作用により、「呼吸などの老廃物として最終的に水と二酸化炭素になる」、とされるのが生分解性プラスチックです。
いわゆる本来の生分解とはこちらの作用を指して言います。
さてこの時、微生物が取り込み代謝として生成する中間物質又は生化学物質はないのか?。
もしあるとすればその物質は環境に対して安全なものなのか?
、という疑問が浮かぶでしょう。
更に、たとえば農業資材としてある農地で特定の生分解性プラスチックからなる製品を使い続けた時、特定の分解過程の物質がその農地内に異常に増えはしないか?
それは土壌や作物に影響を与えることはないのか?

また、その特定物質を選択的に好む微生物がその農地で大量発生し、土壌自身はもちろん周辺環境に影響を及ぼすことはないのか?
残念ながらこれらの疑問もまた、ようやく研究が始まった程度という実状なのです。
安全な材料を使用して作った物が、物理的にも化学的にも、もちろん生物学的にも必ずしも安全とは限りません。
 
 
(3) 原材料の価格変動と供給 
生分解性プラスチックは主に、毎年再生産可能な飼料用とうもろこしからの穀物でんぷんを原材料としています。
その意味で資源自身が枯渇する恐れは少ないのですが、ごく少数である大産地国の天候や作柄に大きく影響を受けるのも事実です。
特に世界的天候異変が毎年のように叫ばれる昨今では数年前の例のように、短期間に数倍程の価格変動にみまわれる可能性も否定出来ません。
更に飼料としての需要、アルコール、乳酸、コーンスターチ等の燃料用又は工業用としての需要、そしてプラスチック原材料としての需要等が重なった場合、どの程度の変動要因となるのでしょうか?。
生分解性プラスチックとしての現状の生産量ではまったく問題ありませんが、将来目指す必要量は日本だけでも百万トンオーダーになる可能性があります。
現状、問題とならない穀物価格も、大規模プラントによる大量生産・価格低下が可能となれば無視出来ないものとなることでしょう。
それは最近でも、いわゆるバイオエタノールのしての需要増加からニュースとなったばかりです。
 
 
(4) 物理データの整備 
現代のニーズにも合って、なかなか良さそうなプラスチック材料であることは分かった。
それでは、・・・・ってことで「ひとつどんなものか試作でもしてみようか」と思った時、実は物理データがその精度と共に今ひとつ不足しているのです。
それでも数年前に比べればそれなりに整備されてきたとは聞きますが、やはり汎用プラやエンプラのような訳にはいきません。
たとえば、成形屋・金型屋なら真っ先に聞くであろう収縮率さえ、なんだかかなりあやふやなのです。
「1%〜最大3%です」って言われても、「オイオイそれじゃ範囲が広すぎるだろ」ってね!!
プラ材料メーカーも曲げ弾性率や強度、分解性などはそれなりに調べるのですが、収縮率なんてのが案外盲点になっているのです。
「材料屋さんて化学は専門なんだろうけど、以外に加工や機械のことを知らないんだよね・・・・!!」
いずれにせよ、精度を要求する分野にはまだまだ難しいところがあります。
まして異種素材の組立物なんかどうなることやら?
現状では成形物それ一つで完成品、といった物しかなかなか使えません。
よく目にする食器類、水回り用品、ポットなどがそうです。
それでも、最近になってようやくAV関係やパソコン、車などのセットメーカーがリサイクル法がらみもあって、自社製品の外装部品などに使い始めています。
セットメーカー自ら開発・加工に携わった材料であれば、自社製品には自社判断で使えるだろうってことですね。
しかし、これが外販しようかとなると話はまったく変わってきます。
外販するにはやはり相手を納得させるためのデータを揃えなければなりません。
PL法が整備された現在、「材料を変える」という作業は基本の「キ」だけに大きなリスクを伴うのです。
未だ信頼できる長期実績もなく得体の知れない材料?とあれば、セットメーカーにとってそのリスクは極めて挑戦的なものとなるでしょう。
今あるすべての生分解性プラスチックの中で、10年後20年後いくつが生き残り安定供給可能となっているでしょうか?
材料を変えると言うことはそう言うことなのです。
現在それ故、「使おう」と試みるセットメーカーは少なからず材料開発にも加工にも携わっています
材料メーカーは「信用されてない」、そう思われてもしかたない状態と言えないでしょうか?
もちろん、それだけが理由とは言いませんが。
 

 


 

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