精工舎/No.810唐草ビー目覚まし時計 | ||||||||
新規追加 2012年 7月15日 | ||||||||
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精工舎(服部時計店)は明治25年、創業者服部金太郎により東京市本所区石原町に産声を上げます。翌年には同区柳島町に移転し、それまでの家内工業的製造から動力を導入し本格的な時計製造が始まりました。工場移転後の発展は目覚ましく、10年を経ずにして早くも国内トップクラスの大時計メーカーに成長しています。今や世界に冠たる「SEIKO」ブランドとなったセイコーホールディングスの礎は、この頃より着実に築かれ続けて来たと言っていいでしょう。 可愛さが人気のウラビー目覚ましの変形版です。 他項でも触れましたように、ビー型機械を使用し筐体背面にリンとなる裏蓋が付く目覚ましはみんなウラビー(裏ビー)と呼んでいいのですが、筆者は特に「裏側に目安文字板の付く2階建て機械の入った時計」のみ便宜的にウラビーと呼んでいます。 対して小型ビー機械の天面または底面に外付けのリンを付けた目覚ましは「ビー目(覚まし)」と称し、その意味で本機はウラビー機械こそ使用してはいますがタイプとしてはビー目時計と言うことになるようです。なんだかややこしいけど、形からくる呼び名と言うことですね。差詰め本機は「底ビー」ってとこかな? その底ビーこと本機はウラビー機械から底面にハンマーの柄を延ばし、外付けの小さなリンを叩きます。比較的シンプルなアンチモニー筐体の底に逆さ取り付けのリンはそれだけで可愛いものですが、実はこの種は他にもガラスや大理石などけっこう種類が多くいずれも人気機種となっています。この形としては主に大正期から昭和初期くらいでしょうか? 戦前の大衆的目覚まし時計としてはへそ形目覚ましが有名です。対してこの種は小さいながら高級機仕様の面取り厚ガラスが使用されていたり、価格的にもちょっとお高く差別化されてる感じ。但し、比較的大きなへそ形や一般の目覚ましがそれなりの確率でレストア可能なのに対し、ビーまたはウラビー機械で程度の良い物は決して多いとは言えません。レストアして単に動くようにするのはそれほど難しくありませんが、1日以上それなりの精度を持って生き返るのは半分には厳しいかなというとこでしょう。元々小型設計が肝となる腕時計や懐中時計に比べ、へそ形から派生するこの種の機械に小型化はあまり想定されてなかったように思えます。もちろんもっと小さな目覚まし機械も古くからありますが、慣性質量が大きな機械のスケールダウンにはそれなりの無理があるのでしょう。 |
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入手時外観 経年による多少のくすみ、ヤニ汚れはありますが全体に傷みは少なく概ね良好。機械は写真の通りウラビー機械で、ハンマーの柄を底面に延ばし小さなリンを叩きます。ツマミ類では目安針ツマミが紛失。針ツマミも妙に沈んでいて回しづらく、本来はもう少し長いものと思われます。 揺すると小さくカラカラ音がして、2〜3回程度動作音が聞こえます。時計ゼンマイは生きてるけどリンゼンマイは空回り。致命傷とかなければいいけど? |
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分解 ばらしてみると、紛失と思われたリンのストップレバーが筐体内に転がっていました(左上写真)。カラカラ音の正体はこれだったようです。リンのハンマーは機械側から出る短い柄に、真鍮玉の付いた別の柄をねじ込んでいます。リンはもちろん支柱回りをすべて外さないと機械が取り出せません。 |
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機械と部品類 筐体から取り出した機械と部品類です。 ウラビー機械自身小さな機械ですが、この種の時計は文字板枠も含めけっこうぎりぎりな作りです。右上写真のようにヒゲゼンマイの螺旋が片側に寄り、詰まった側の外周部は接触。これじゃ上手く振動しないのも無理はない。 |
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2階建て機械 お馴染み2階建てウラビー機械のリンゼンマイ地板には、「鍵S」ロゴと「U」の刻印。天真受けネジはきつく締め込まれていて、調整で回そうとしたのかレバーが曲がっています。 |
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機械両面 機械の背面側(左写真)と表側です。 上の写真でも分かりますがリンゼンマイが途中で折れてるような? 赤矢印の上側は真鍮玉の付いたハンマーの柄がねじ込まれる機械側のネジです。下側矢印先には地板に二つの「?」マークのような刻印。意味は分かりません。 |
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テンプ周り 外したテンプ(左上)をバイスに銜え(右上)ヒゲゼンマイ最外周部を慎重に形状修正。 受けネジは二つとも右小写真のようにまっ茶でしたが、汚れを取ると特に問題なく使えそう。テンプの天真も汚れていた割りに目立つ摩耗はなく、#800のサンドペーパーで軽く磨いた程度でOK それらを機械に組み直し、曲がっていた調整レバーも修正しどうやら大丈夫です。 |
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リンゼンマイ補修 くにゃって曲がってるように見えたリンゼンマイは、支柱に絡んでいた先端がなぜか巻き込まれ曲がっていたものでした。ヤットコで引きずり出して延ばしておきます。 入手時空回りしていたのはゼンマイ切れではなく、軸の爪が外れていたものでした。ゼンマイの板面を押しながら軸を回し、幸い上手く引っかけることに成功し事なきを得ました。 この機械ではハンマーとなる真鍮玉を外すと慣性質量が極端に小さく抵抗がほとんどありません。その際たまたまリン鳴り時間に達すると、ゼンマイは制限無く緩んでしまいます。分解時の写真でもすでにそうなって大きく膨らんでいますが、文字板枠をもう少し長くしてリンゼンマイ位置まで覆ってくれればいいんだけどね。っで、軸が外れた原因もその緩みすぎが元で、引っかかりが抜けちゃったようです。 更にこのゼンマイにはヨレ癖があり、ある程度緩むと左下写真のように引っかけ位置がずれて歯車に乗り上げてしまいます。こうなると以降巻けなくなってしまい、針金を使ってずれないように固定しました。 |
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リン機構調整 リンゼンマイが巻けるようになったのはいいけど、なんだか時間に関係なくほとんど鳴りっぱなし状態。この機械は小さいがため上下動するカムが縁に近く、結果的にストッパー爪の上下動も小さくけっこう微妙です。そこで非動作時確実に止まるようステーをわずかに曲げ修正。 この写真で上に出ている金具がハンマーの柄となり、真鍮玉の柄がねじ込まれるネジが先端に切られています。この写真からハンマーを外した際慣性質量の小さいことが分かるでしょう。 |
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部品類と針 清掃、磨き込みなど行った部品類です。 針は普通のビー目用針です。左下写真のように短針が時間にして30分程度基から曲げられていて、右下写真のように出来る限り矯正。短針は一度緩めて差し替えれば済むことなのになんで? |
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再組立 元通り機械回りを組み上げます。 分解時の写真でも分かりますが、リン止めレバーはなぜかスペーサーを入れても高さが足りず筐体に当たって回せません。そこでスペーサー上にワッシャーを2枚追加。これで動かせるようになりました。何か紛失した部品があったのかも知れません。 |
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風防と底面 元通り組み直してレストア完了。 風防は厚ガラスの面取りゆらゆらガラスです。底面の足はホイップクリームのようで特徴的。 |
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背面と側面 紛失していた目安針ツマミは置き時計の長針留めナットで代用。 この時計ではリン止めレバー先端が後年逆曲げされてるようです。本来前面に出るレバーですが、背面側に置かないと正しくリンを止められません。まあ、使用勝手に問題ないと言うことでそのまま取り付けました。 唐草ビーという名前ですが、この筐体模様って一般に思う唐草模様とは違いますよね。 |
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慣性質量 ニュートンの運動の第二法則で定まる質量。物体に力が働いた時に、物体の慣性によって生ずる抵抗の大きさを示す物体固有の量。(広辞苑第五版より引用) 要は重さからくる動きにくさ、または動いてるものの止まりにくさ。 慣性質量が大きい=抵抗が大きい=動きにくい、または動いてるものであれば止まりにくい。軽自動車よりバスの方が動かすのが大変だし、走ってるものであれば止めるのもまた大変ってこと。回転体の場合重心位置や重量配分も影響するので単純な重さだけではありません。昔のアナログプレーヤ(レコード再生)ではお馴染みの要素でしたよね。 |
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