設 計   980419  No.08

天野 : 「設計する時に一番大事な能力って何だと思う?。」

記者 : 「えっ!僕が答えるんですか?。」

天野 : 「そう」

記者 : 「やっぱり、その分野の知識じゃないですか?。」

天野 : 「知識は大事だよな。でも邪魔することもある。一番じゃない。他には?」

記者 : 「他には、技術や経験とか・・・・」

天野 : 「うん、それも無視は出来ないな。」

記者 : 「案外、情報収集能力とかって大事じゃありません?。」

天野 : 「確かに。でもほんとはねえ、一番大事なのは「センス」なんだよな。持論なんでいろいろ反論もあろうかと思うけど。」

記者 : 「センスって言われても漠然としてますねえ。具体的にはどういうことですか?。」

天野 : 「直訳すれば感覚とか判断力ってことだろうけど、まあそういう意味にとってもらってかまわない。
部品を寄せ集めて製品設計をする時、その数が多くなればなるほどほとんど無限の組み合わせが出来あがっちゃうだろ。その中で何を選択しどうくっつけるかというのは、設計者の持ってるセンスがもっとも露わになる場面でもあるわけ。
新規の部品や製品を新たに作り出すとなればなおさらで、その設計センスが更に重要になるってことは想像に難くないよな。
理屈の上で無限にある条件から設計者が製品の機能と生産性や外観などを、どこでバランスさせるかというセンスにすべてがかかってる。」

記者 : 「特に重要な要点っていうか、そういうものはあるんですか?。」

天野 : 「絶対条件としてその物が目的としている、必要にして十分な機能を満足させなければならない。
数作ろう(売ろう)と思ったら生産性(コスト)や外観デザインなども無視出来ないけど、それは機能を満足させる前提条件があっての話。
仮に誰かが画期的生産方法を考案して、50万円で売れるカッコいいデザインの車を作ったとする。でも時速30qしか出ないし、すごく窮屈な姿勢で運転するような車だったら、それって優秀って言える?。工場内やゴルフ場のキャリアー(カート)ならそれでいいかもしれないけど、公道を走る一般車じゃそうはいかないよなあ。
実用性を考えたときの車の機能は、人や荷物を遠くまで安全に速やかに、快適に運ぶための道具であることが第一であるはずだよな。特に最近は車に限らず更に環境への配慮も重要な要素になってる。設計のリーダーとなる人にはこのすべてを高次元でまとめあげるセンスが求められるわけだし、個々の部品設計の人には自分の担当部品が全体の中でどの機能を受け持ち、他にどんな影響を与えるのかということを見極めるセンスも必要になってくるだろう。
本来の機能とは無関係な特定の性能がいくら優れていてもそれじゃ単なる遊びか自己満足の域を出てない。
現在の車のように複雑な機械はもちろん個人ですべてを設計するわけじゃないけど、それだけに一つ一つの部品設計が全体に与える影響も無視は出来ない。部品が多いから一つくらいは適当でもと思ったら、欠陥車の原因となってしまう危険すらある。」

記者 : 「なるほど。それはたとえばお皿みたいに、それ一つで完成品という単純なものでも同じですか?。」

天野 : 「もちろん、まったく同じ。
皿やスプーンには食器としての機能があるはず。スープの飲めないスプーンじゃどんなに洗練されたデザインがされててもスプーンじゃない。
座れないイスはイスとは言えないし、眠れないベッドはベッドじゃない。
やむを得ず生産性や外観を犠牲にすることはあっても、機能を犠牲にして図面を描くことは設計者であればプライドが許さない。あくまでも機能を満足させた上で、生産性や外観に優れたものが優秀な製品となる。
もっとも本来とは別の目的があったり、芸術的にデザインを楽しみ、見るためだけの作品とするならそれでもいいけどね。」

記者 : 「そういう場合もあるでしょうね。」

天野 : 「たぶん優秀な設計者というのは料理を作らせてもうまいと思うし、サバイバルも得意だと思う。最初の話と矛盾するようだけど、実際の設計業務は指定された条件や限られた部品を利用しまとめあげることが多い。その過程はまさに料理やサバイバルに通じる考え方を要求される訳で。何かをする(考える)ことによって常にその結果を予想し、次の対処方法も複数考えながら行動していかなければならない。
これはもうセンス以外の何者でもない。
ついでに言えば、設計の対象となったその特定分野だけに精通したプロよりも、最低限の知識さえあれば他には、たとえ浅くても様々な分野を知っている人の方が優秀な設計者になる可能性が高い。つまりそれだけ一つの製品に対して、専門家の立場だけでなくあらゆる角度から見る目と、考えをめぐらす題材を持っているってことなんだよな。」

記者 : 「なるほど、よくわかりました。」

 

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