変更って罪悪?  990501  No.26



天野 : 「日本って国は一度何か決まり事を作ると、たとえそれが多少時代遅れになってもなかなか変更したがらない国民性だよね。」

記者 : 「よく言えば先人の苦労に敬意を表するという。」

天野 : 「悪く言えば責任回避の関係が世代を越えて延々と続くという。」

記者 : 「まあ、そういうところもあるかな?。」

天野 : 「たとえば毎年この時期話題になるのが憲法改正(改悪?)問題。今年も3日の憲法記念日には、各地でそれぞれの立場から集会が開かれるに違いない。こと憲法問題に限っては何故か従来の保守と革新の立場が逆になってんの。つまり保守政党が改憲派で革新政党が護憲派なんだよね。普段は何かと言うとアメリカ帝国主義がどうのこうのと騒いでる政党がさあ、そのアメリカ(人)の作った憲法を一生懸命守ろうとしてる。片やアメリカべったりの保守政党は何とか改憲しようとこちらもまたご執心。しかも議論と言えばほとんど第9条の、いわゆる「戦争放棄」と自衛隊の問題だけに集中してるんだよな。」

記者 : 「そうですねえ。もうほとんどそれしか話題にならないって言ってもいいんじゃないですか?。」

天野 : 「マスコミがそれしか伝えないんじゃないの。」

記者 : 「いや、まあ、そうですかねえ。それが一番の関心事ということで・・・・」

天野 : 「その部分で言えば改憲派は最終的に自衛隊の(憲法上での)法制化を目指し、護憲派はそれに「待った」をかけてるっていう構図かな。まあその議論に踏み込むとどちらもブラックホールに落ち込んじゃって、ほとんど感情論と対抗意識、ついでに自勢力の宣伝効果を狙ってるとしか見えない。さすがに最近は現実に存在してる自衛隊を何らかの形で認めざるを得ないと、護憲派にやや妥協の動きもあるようだけど、はたして本心はどうなんだろう。それに水を得た改憲派はこの時とばかり一気に先の法制化に道を開こうとしたりして。」

記者 : 「それで話は日米ガイドラインの登場ってことでしょうか?。」

天野 : 「いやあ、その話は今日のテーマじゃないからさあ、今更ギャーギャー言っても時すでに遅しだよな。
本題は、変更することをまるで罪悪に思ってるとしか考えられない日本人の特質にある。最初に言った国民性と言うか、民族性と言ってもいいだろう。特に縦の関係、つまり自分たちの先輩が作った法や決まり事はいつまで経っても、頑なに守ろうとする後輩気質のようなものがある。先の憲法から果ては各地域に残る慣習だとか「しきたり」まで。」

記者 : 「まあ、そういうのはありますよねえ。これまであったものを途中で変えるってことは、その言い出しっぺに責任が被さることを意味しますからね。だから多少時代遅れかなとみんなが承知していても、変えたことによっておこる結果に責任をとるのが嫌だから、誰も「まあいいか」で終わりにしちゃうっていう。特に田舎での慣習やしきたりとなると根強いだろうなあ。とりあえず従ってれば長老方に文句言われることもないだろうって。この辺も何だかんだ言って田舎には違いないから、冠婚葬祭がらみなんか多いんじゃないですか。」

天野 : 「まあ、冠婚葬祭くらいなら儀礼として見ればまだいいよ。慣習やしきたりもそれで当座の人間関係が丸く収まるならあえて文句はやめとこう。
むしろ法治国家である日本の根本的な面で先の憲法を含む六法なんか、明治時代や大正時代に作られた法がそのまんま今でもいっぱい残ってるらしい。もちろん古いから悪いなんて単純に言うつもりはない。イギリスなんか何世紀も前の法律が現代でも生きてたりするんだから、日本だけの話じゃないかも知れないしね。」

記者 : 「歴史の古い国になるほどそんな傾向があるのでしょうか?。」

天野 : 「必ずしもそうとは言いきれないと思うな。はっきりしてるのはイギリスは何世紀も前から常に先進国だったろ。時代・時代の先進国として王制や議会民主制を発展させ、その都度変革をとげながらも忘れ去られた法の中にたまたま古いのもあった、って考えた方がいいだろう。
さて日本はどうか?。歴史の長さだけはヒケを取らないけどね。
日本の場合、幕末に西欧諸国の経済力や軍事力をいやが上にも知らされ、明治以降の富国強兵から目覚ましい経済発展を遂げた。で、ようやく当時の先進国と言われ始めた頃、世間知らずで起こした(起こすよう仕向けられた?)馬鹿げた戦争による敗戦で再び最貧民国となった。結果的にはしかしまことに幸運なことに、そこで新たな思想の導入に成功して180度方向転換。この点に関しては何だかんだ言ってもアメリカに大感謝して損はない。もし戦前のまま軍事大国化しちゃったらそれこそ考えただけで空恐ろしい。
とにかく新しい憲法の基、再び経済発展の末、現在アメリカに次ぐ世界第2位の経済力を持ったってわけだ。
何度も言うようだけどほんとに日本って国は幸運だった。地理的にドイツと同じ東西の接点に位置していて、しかも太平洋に対して開かれた島国としてはかなりやばかった。終戦直後戦勝国間でどんなやりとりがあったかは詳しく知らないが、結果的には天が見方してくれたと言ってもいいだろう。」

記者 : 「色々あったけど、結果オーライ。ドイツや朝鮮半島みたいに国が分割されなかっただけでも、天野さんの言うその幸運には感謝してもしすぎることはないですね。」

天野 : 「で、問題はと言うと、軍国主義華やかなりし頃作られた法律や、どん底で今後の経済発展なんてとても想像すら出来なかった時に作られた憲法を、そんな時代の変化に対応させてきたのかって所を指摘したいね。
憲法は9条だけじゃない。刑法も民法も同じ。特に憲法は一字一句変えることなく半世紀も長らえてきている。」

記者 : 「でもそれは変える必要性がないほど日本国憲法が優れた、まさに時代を先取りした世界に誇るべきものだったということじゃないですか?。」

天野 : 「うん、確かに基本的には俺も同感だよね。法の根幹をなす憲法としては極めて短時間のうちに(正味2週間くらいとか?)作られたということだけど、敗戦で真っ新な状態の日本だからこそ、ある意味理想を追求したものとなったのかもしれない。ただ理想を追い求めたものが半世紀の凄まじい歴史の変化を経た今でも、果たして現実的に優れたものと言えるかどうかは微妙な問題だと思う。
未曾有の高度成長を遂げた日本において憲法に限らず、何十年も前の法律が機能不全を起こしてる現実はあらためて指摘するまでもないだろう。最近のハイテク犯罪など取り締まる法律そのものががなくて、被害を受けても泣き寝入りなんてのがかなり多いはず。特に個人的には刑法も民法も実際に問われた裁判内容や世間への影響力からすると、最近は量刑がやけに軽すぎるんじゃねえかと思うな。多少リスクを背負ってもやっちゃったもん勝ち。ちょっと罰金を払っても儲けは数十倍も数百倍もってのが多い。」

記者 : 「それなりに新しい法律は作られていますが、ハイテク犯罪となると取り締まる側にも専門的知識を必要としますから難しいですね。すでに犯罪の多様さについていけない現実は十分にあり得ます。」

天野 : 「かといってやたら厳しくして、恐怖政治や秘密警察なんてのは勘弁。法に限らず変更することで責任を持たされるのが嫌なら、時の責任者は住民投票でも国民投票でも積極的に利用すべきだと思うね。
もっとも、やりすぎると弊害が生まれる現実も十分承知してないとまずいけど。」

記者 : 「政党政治の議会では難しい面もあるでしょうけど、選ばれた政治家なら結果を残さなければどんなに清潔な人でも、単なる給料泥棒と同じですよね。」

天野 : 「お、いいこと言うねえ。議席に座って政党の言いなりなら誰でも出来るってな。
変更や訂正することを恐れちゃいけない。結果が良かろうが悪かろうが、変えたことによって生まれる内容は必ず次に生きるはず。変化のないところに発展も希望もないことをもっと考えるべき。」

記者 : 「はい、同感です。」

 

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