刷込み  990701  No.28



天野 : 「「刷込み」っていう現象知ってるかい?。」

記者 : 「ええ、あの、鳥なんかのやつでしょ。卵から孵化したばかりの雛が最初に見た動く物を親だと思ってなついちゃうという。」

天野 : 「そうそう、それ。今ほら、話題の「トキ」だけどさあ、あの雛、順調に育ってるそうだけど大丈夫なんかなあ?。あの雛はさあ、どうみても人間を親だと思っちゃってるよ。どうやって飛び方とか教えるんだろう?。」

記者 : 「ああ、そうですねえ。どうなんだろう?。親くらいにまで育っちゃうとその刷込みってやつは消えちゃうのかなあ?。飛び方はライトプレーンでカモか何かと編隊飛行しているのをTVでやってましたね。確か羽ばたきを教えるのに人が手をバタつかせていたような・・・・?。それとも本能的にわかるのかなあ?。どっちみち籠の中の鳥じゃ関係ないか。」

天野 : 「なあ、心配だろ。いつまでも親だと思われちゃ担当の係員だって大変だよ。小さいうちは可愛いだろうけど、親みたいになってから突っつかれちゃったりつきまとわれちゃったりしたらさあ、そりゃやっぱり困るよな。まあ、たぶん鳥の場合巣立ちすればそういうのも無くなっちゃうんだとは思うけど。」

記者 : 「と思いますけどね。」

天野 : 「動物で言えば今、関東ローカルで話題の東京都心に出没してる日本猿。何しろ「サミット」のニュースを差し置いて、トップニュースになっちゃたりするんだからどうかしてるぜ。
はっきり言って何も知らないくせに可愛い・可哀想という理由だけでさあ、人間の食べ物なんか与えちゃう奴までいるもんだから、もう手遅れ。おまえら猿が死ぬまでずっと面倒みられるのかって言いたいね。猿にしてみりゃ山で食べる渋くて苦い木の実や木の芽(実際に猿の味覚でそう感じるかはわからないが)より、人から与えられた食物の方が旨いに決まってんだからさあ。猿だって楽に旨い物が貰えりゃそっちの方が余程いい。そんな学習しちゃって刷込まれたら、たとえ捕まえて山に戻したってまた町に出て来るに決まってんだろ。下手すりゃ仲間引き連れて来かねないよ。こうなっちゃったらもう動物園に送るか殺すしか無いんだからさあ。
ただでさえ町に降りてくりゃ残飯や農作物などから味を覚えちゃう可能性が高いっていうのに、わざわざ教えてやってどうすんだよ。各地の観光地で馬鹿な観光客が餌をやるもんだから、野生動物が人に対してどうなっちゃったか考えてみろってんだ。」

記者 : 「本能と違って学習によって刷込まれた最悪のケースですよね。野生動物は奈良の鹿とはわけが違う。」

天野 : 「さてそこでだ。人間はどうなんだ?。「トラウマ」なんてのがあるからな。人は他の動物とは比較にならない程の知能を持っちゃったもんだから、むしろ始末が悪いような気もするよね。普通は多くの本能的部分を学習によって理性で押さえ込んじゃう、ってのが人って生き物と他の動物との大きな相違点とも言えそうだろ。逆に幼児期に学習によって思い込まされちゃったものってのは、簡単には変えられないと思うな。だから本人も気付かないトラウマなんてものがある訳だし、これって一種の刷込みだよね。」

記者 : 「まあ、そういうことでしょうね。」

天野 : 「身近なところならアウトドア・ジャケットのカタログなんか見るとよくわかるよ。男物と言えば迷彩色や黒・青・茶系統の物ばかり、逆に女物では赤や黄色・パステル系が主流。つまり男はこういう色で女はこういう色っていうのが、商品として完全に刷込まれてる。この辺はどうも洋の東西を問わず似たようなもの。いわゆる有名外国ブランドも俺の目には同じように見えるな。もっとも日本の輸入商社が、あるいは販売元自身ががすでに子供の頃からの刷込みの結果、無意識にそういう色を選んでるのかも知れないけどね。先入観とでも言うか、初めから男には赤や黄色のジャケットは売れないと思ってるんだろうな。
まあそういう色を選ぶ人は全体の数的には確かに少数派には違いねえだろう。しかし馬鹿だよなあ、他がやらないなら初めにやったとこが独占出来るのにって思わねえかなあ?。たとえ少数でも全体の升がでかいんだからさあ、一気にシリーズ化しちゃえばかなりの数のユーザーを見込めるのにね。」

記者 : 「そうかも知れませんね。ただちょっと売れればすぐ二番煎じが出てきそうだけど。」

天野 : 「ああ、まあそりゃ間違いねえな。でもあそこはっていう宣伝効果は残ると思うよ。あのメーカーはまた何かやってくれるかもっていうな。もしそう思わせることに成功したらそれだけで勝ちだよね。」

記者 : 「そんな気はしますよねえ。どうしてやらないんだろう。やっぱりこれも横並びっていう奴でしょうか?。」

天野 : 「「刷込み」っていう現象がいつか先入観と共に、「・・・・でなければならない」っていう事実として育っちゃった。そしてみんながそうだから、自分だけが特別では世間から仲間外れにされるっていう。だから未だに男はこうあるべき、女はこうあるべきっていう既成概念が多くの人にあるし、すぐにお気に入りの仲間同士で群れたがる。俺が嫌うのは別にファッションなんかどうでも、実際はそっちの方なんだけどね。」

記者 : 「群れたがるってとこですか?。あまり刷込みとは関係ないような・・・・」

天野 : 「いやいや、やっぱりどっかで学習させられてんだよ。こうしなさい、ああしなさい、こうでなければならないってね。極論すれば民族問題だって、宗教問題が果ては戦争に発展しちゃうことだって、みんな自分たちの同士以外を排他的に刷込まされた結果だよ。乱暴な言い方なのをあえて承知して言えばそうならないかなあ。もちろんすべてそれが原因だなんて簡単に言うつもりはないし、グループを作ることに何でもかんでも反対するようなつもりも更々ない。ただ考え方としては刷込みの結果がかなり大きなウェートを占めてる、くらいのことは言ってもいいんじゃないかな。」

記者 : 「その手の問題は根が深いですからねえ。パレスチナやユーゴを引き合いに出すまでもなく、確かに今、世界のあっちこっちで問題になってる多くの争いには、ほとんどどちらかが顔を出しますよね。」

天野 : 「民族問題=宗教問題ってリンクした関係があるよな。まあ、そんなに大袈裟に言わなくても、さっきの男がこう、女がこうってのもあるし、子供はこういう風で大人はこうだっていう考えもある。
相対する二つの何かがあるとそれを比較対立する関係ばかり探しちゃって、融和させるような関係はなかなか探さないんだよね。いったい誰がそんなこと教えたんだって?。それこそなんかまったくのナンセンス(これって死語?)だって言いたいんだけど、実際は多くがそいつに従っちゃう。集団とか組織として仕事や生活の中で切り離せない規則やマナーはもちろん多い。それはそれでいいとして、それらと関係ないプライベートな部分でもやたら排他的に群れ集うことが多いし、そういう仲間に入ってないことを極端に恐れる人も多いね。」

記者 : 「子供の頃誰かによって教え込まれた考え方は、その後ずっと大人になってもなかなか変わらないということですね。まさにそれは鳥の刷込みと同じだと。」

天野 : 「それでも鳥類の刷込みはたぶん巣立ちまでだと思うからまだいい。あれは生き残るための本能的な手段だって解釈することも出来る。ところが鳥よりずっと知的なはずのホモサピエンスは、一生尾を引くような性格や思想として残っちゃうからなおさら問題が深い。その意味で鳥類の刷込みより遙かにたちが悪いとも言えそうだし、親や社会の責任は大きいよね。
たまには、俺はいつからこういう考えを持ったんだ?、いったい誰の影響を受けたんだ?って考えてみるのもいい。ま、ほとんど答えはわからねえんだけどな。」

記者 : 「なんかトキの話から民族問題まで出てくるとは思わなかったなあ。」

天野 : 「まあいいじゃんか。」

記者 : 「いいですけどね。最近話題が難いって言われますので・・・・」

天野 : 「あっそう・・・・」

 

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