グランプリ 990801 No.29
天野 : 「今、グランプリが面白い。」
記者 : 「F1ですか?」
天野 : 「いや、オートバイの方。」
記者 : 「バイク?。バイクでもグランプリなんてのがあるんですか?。」
天野 : 「あるんだなあ、これが。ここで言うグランプリは2ストローク車によるロードレース世界選手権シリーズのこと。500cc、250cc、125ccの3クラスで、F1と同じように世界を転戦してるんだけどね。
何が面白いってさあ、3クラスとも日本人が大活躍してんだよ。」
記者 : 「でもほら、活躍って言っても、大概そういうのはビッケの方ってのが多いじゃないですかあ。なんかどちらかって言うとお慰めで参加させてもらってるみたいな。」
天野 : 「今まではね。確かにそう言われても仕方ないような状況はあったな。でもここ数年バイクレースの世界じゃ大きく変わって来たんだよ。
90年代に入ってぼちぼち日本人の活躍が出はじめて、ここ数年はむしろ各レースで日本人が表彰台に立たない方が珍しいくらいになってる。以前から何度かポツンポツンと優勝した人もいたんだけど、所詮1回ポッキリとか上位が総崩れでってのが多かった。ところが今は、特に125ccや250ccの小排気量クラスなんか、シリーズの年間チャンピオンになるような選手まで出てきたんだよね。フロックじゃなく実力で勝ってる。今やホンダ、ヤマハなどのハードだけじゃなく、それを操るソフトの面でも日本人抜きに語れなくなっちゃった。」
記者 : 「へえー、それは認識不足でした。」
天野 : 「それでも何年か前ならモンスターマシンの500ccで、日本人がコンスタントに入賞するなんてほとんど夢だったよ。それが今は入賞なんて当たり前。それどころか優勝する選手まで現れ始めたし、シリーズチャンピオンだってもう夢じゃなくなってきた。F1で言えばシューマッハやハッキネンとまではいかなくても、クルサードやアーバインクラスの選手は出てきたってこと。」
記者 : 「なるほどねえ。クルサードクラスっていったらもういつ優勝してもおかしくないクラスじゃないですか。」
天野 : 「そうだよ、けっこうなもんだろ。それも一人ってわけじゃなく、そういう選手がゾロゾロ出てきてんだからほんと楽しみだよ。仮にも日本のスポーツ選手がさあ、国際舞台でこんなに活躍してる分野ってえのはバイクぐらいじゃねえかなあ。」
記者 : 「ん〜、そうですねえ、最近は柔道なんかも怪しくなっちゃったからなあ。F1でも現実的には完走目標が精一杯だし、野球やサッカーもはたして世界レベルと言えるかどうか。単独で強いっていう選手ならいても、全体のレベルが世界クラスって言うのはあまり思い浮かばないですね。」
天野 : 「そうだろ。精々スキーのジャンプとか、一応義理と慰めで柔道や野球も入れてやっていいけどね。
ところがバイクの世界は違うよ。
まず125ccだと、現在まで9戦中何と5戦をホンダの「東」が勝ってる。去年だってアプリリア(イタリアのバイクメーカー)の「坂田」がシリーズ・チャンピオンだった。今年も今のところその東がポイントリーダーだし、日本人の連覇をかなり期待してよさそう。
250ccではホンダの「宇川」とヤマハの「中野」が大活躍。特に宇川は優勝こそ今シーズン1勝だけど常に表彰台に立ってる。残念ながら前回のドイツ・グランプリで転倒しちゃって、それまでキープしてたポイント・トップを譲っちゃった。このクラスのシリーズ・チャンピオンとなると中野を含めた日本人二人と、イタリア人二人の4人がトップ争い。相手が強敵なんでちょっと難しいとは思うけど、それでもけっこういい線行くんじゃないかな。
で、最高峰は500cc。こちらはホンダの「岡田」、ヤマハの「阿部」、スズキの「青木」、アプリリアの「原田」などなど。ほんと一昔前なんて、500ccなんかレースに出場するってだけでニュースだったんだからさあ、隔世の感があるよ。
まず岡田は97年のシリーズポイント2位の実績が光ってる。ケガで去年はちょっと不遇だったけど、今年は復活して表彰台に何度も立ってる。圧巻はオランダ・グランプリで、ポール・ツー・フィニッシュの完全優勝。いよいよ実力を発揮してきたって感じ。阿部は確か97年(96年だったかな?)の日本グランプリで優勝して以来、そこそこいい線行ってんだけどちょっとポカミスの多いのが玉にキズ。青木は2〜3年後が楽しみかな。
ただそんな中で俺が一番注目してんのは原田。アプリリアのエースで、去年250ccの最終戦で不運な当て逃げ事故でシリーズチャンプを逃しちゃった。でも実力は折り紙付きと言っていい。今年からアプリリアとしては難しいって言われた500ccに、初めてステップアップしたんだけど、これがどうしてどうして非力なマシンながら大活躍。もしマシンが熟成されればと思うと期待は岡田以上かも知れない。ホンダなんかに乗ったらどんな走りをするんだろうって思わせるしね。」
記者 : 「なるほどねえ。凄いんですねえ。」
天野 : 「けっこうびっくりするだろ。それくらい活躍してんだよ。
ただ日本じゃさあ、モータースポーツってちょっとマイナーだからねえ。まして2輪は多くの人にあまり良く思われてないから。確かに熱狂的ファンも多いんだけど、だからってたとえばTVやラジオで生中継されるなんてほとんど無い。仮に中継があっても録画で編集されたものばっかり。どう見たって野球やサッカーとはわけが違うよ。」
記者 : 「そうですねえ、F1の日本グランプリだって録画ですからねえ。日曜のまっ昼間にやってるっていうのに、どうして生で流さないんでしょう。」
天野 : 「「えっ?録画なの」って正直思うよな。もちろんサーキットまで見に行ければ一番いいんだけど、実際はほとんどの場合難しいだろ。けっきょくTVに頼らざるを得ないってのが現実だしさあ。レースやサーキットを隅々まで見られるということじゃ、逆にTVの方が適してる部分もあるし。
なんてったってスポーツってやつはリアルタイムで見るから面白い訳で、先のわからないところに何より興奮するからね。レースだったらひいきのチームや選手がトップ争いなんかやってて残り周回が数周なんてなったら、そりゃーやっぱり手に汗握るよ。それが結果を知っての録画じゃ興味半減どころか1/10くらいになっちゃう。仮に結果を知らずに見たって、やっぱり録画じゃ現実感がちょっと薄れる。この手はもう、視聴率至上主義の地上波放送じゃほとんど期待出来そうもねえな。
ただ幸いバイクに関してはNHKのBS1がなぜか力入れてて生中継も多い。もうこれにはNHK様々。今度8月22日の18時からチェコ・グランプリが生中継されるから、興味ある人は一度見てほしいね。もし初めてだったらちょっとカルチャー・ショック受けるよ。
他に多少の投資をすればWOWOWやCSなんかでも、リアルタイムで見られるかも知れない。でもやっぱり一般的とは言えないね。」
記者 : 「確かにドラマや映画はビデオに撮ればいつ見たってかまわないけど、スポーツばかりはそうはいきませんよね。」
天野 : 「スポーツ・ファンならみんなそう思うよ。」
記者 : 「思いますねえ。」