ANKER AMATI/Spittelmarkt 14a 卓上蓄音機
最終更新 2012年 8月 1日
 
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上蓋を開けた正面、錨マークのロゴより「ANKER AMATI」としましたが、ドイツ製と言うこと以外メーカーの詳細はまったく分かりません。正しくは銘板にある「MUSIKHAUS MENZENHAUER(MENZENHAUER音楽堂)」と言うのでしょうか? 検索すると同名のオーディオ&楽器店が現在でもあるようですが、この蓄音機の存続企業(店)であるのかまでは分かりません。いずれにしろドイツ語なもので・・・・^^;

下記の寸法や重量からもお分かりになると思いますが、卓上型としては大きすぎるだろうと思うくらい最大級サイズの筐体です。分類からすれば卓上型でしょうが、こんな大きな蓄音機を載せる卓がない?
その筐体は表裏とも丁寧な寄木細工が施された正面観音扉や、職人技を感じさせるアームとホーンなど、各所に散りばめられた木工技術の素晴らしさに惹かれます。ドイツ製ですからその筋のマイスターの作品なのでしょうか? 特に内部ホーンなど、薄板を曲げたパイプ作りとなっており手作り感いっぱいです。
主な仕様(自己調べ)
筐 体 実測/幅62cm×奥行き51cm×高さ43cm  開口時高さ約77cm  重量約20kg
ターンテーブル 12インチ(約30cm)
機 械 2丁ゼンマイ
サウンドボックス Victory sound box No.1(オリジナルではありません)
ホーン  木工パイプ作り折り曲げストレートホーン
時 代 不明(1900年代初期頃?)
その他 オートストップ付き(レバー式手動スタート、手動ストップ兼用)
 
 
入手時外観
入手時外観

外観は内外共多少のスレ、塗装荒れ、小キズなどありますが全体に良好です。ゼンマイが巻けずサウンドボックスも取り付けられないというジャンクでの入手でした。
やはり何より目を引くのはその大きさと、前面観音開きの扉にある紳士淑女の横顔をあしらった寄木細工でしょうか。印刷やシールではありません。扉を開ければホーンの大きな開口部があるのかと思いきや、実は右上写真のように左側にラグビーボール形のホーン開口部が開いているだけです。筐体の大きさの割にはちょっと心許ないかなーとは正直思いました。
 
銘板/操作ツマミなど
銘板/操作ツマミなど

上蓋を開けた操作面奥にある銘板と前面のロゴ、操作面のツマミ類です。

銘板はドイツ語により筆者には良く分かりません。いずれもベルリンの通りや広場の名前のようですが、「Spittelmarkt(シュピッテルマルクト)」はドイツ外務省付近にある広場名のようです。ヨーロッパの商品では有名地名が機種名となっていることがよくあり、だとすると後の「14a」と合わせこれが型番(単なる番地かも?)なのかと判断しました。
左下は天板裏と観音扉を開けた前面右にある錨のロゴ。
下中は操作面右手前にあるスピード調節レバー、下右は左奥にあるオート・手動兼用ブレーキレバーです。ブレーキレバー部はダイキャストに小さなカケと、留めネジは共にバカになってほとんど効いていませんでした。
 
木工貼り合わせ折り曲げホーン
木工貼り合わせ折り曲げホーン

この機種一番のオリジナリティーは何と言ってもこのオール木工製アームとホーンでしょう。

アームはテーパーにくり貫かれたストレート棒と、その両端のエルボからなります。全体に小キズが目立ち、筆者の入手以前に補修されてる様子がうかがえます。実際、サウンドボックス側のエルボには目立つヒビがあり接着補修してあるようでした。回転には多少の抵抗があり、アームベースとなる木工部に当たりか滑り不良があると思われます。
内部のホーンは1枚板のくり抜きではなく、半円筒状に曲げた薄板を合わせ膠(にかわ)で丁寧に接着された凝った作りです。要所要所は補強され、もちろんホーンロードは全体にテーパーがとられています。右写真にあるように開口部付近では縦棒を入れて補強し、おそらくホーン鳴りも抑えているものと思われます。筐体の左半分しか使用しておらず、パッと見、思ったより短いなーと感じたホーン全長も、筐体の大きさもあってアームと合わせ約1.5mほどになります。こういういかにも手作りを感じさせる職人の凝った作りには、音を聴く以前からそれだけでうれしくなりますね。
 
2丁ゼンマイ機械
2丁ゼンマイ機械

2丁ゼンマイと3重錘ガバナーというオーソドックスな作りを、ガッチリしたダイキャストベースが支えます。

巻けないというゼンマイは巻き軸1回転ごとに「シャラン」と音が聞こえ、端部のおそらく軸側が外れているものと思われます。ゼンマイ外周となる香箱側が外れている場合は、巻き軸数回転に1回というペースで音のすることが多いものです。対して、毎回転ごとに音がする場合は大概軸側の外れか、軸付近でゼンマイ自身が破断した場合です。
 
ゼンマイメンテナンス
ゼンマイメンテナンス

ってことでゼンマイを外すと、やはり2丁ゼンマイの片側の軸が外れていました。

それではと香箱をコジリ開け、こびり付いたグリスを拭き取った後しばらく灯油漬けにしておきます。ホントは専用の溶剤やガソリンの方がいいのですが、高いし毒だし危険だしで筆者はいつも灯油と油性用ブラシを利用しています。香箱からゼンマイまでは取り出しませんでしたが、状況から問題ないと判断しました。
右下がすっかりきれいになったゼンマイです。これに注油後蓋をして軸を差し込み、ゆっくり正回転させながら左右に上下にコチョコチョ揺すっているとそのうち、きたーーーって感じで引っ掛かりの感触が手に伝わってきます。思わずニンマリですね。

さて、一度嵌れば簡単には外れないゼンマイですが、それでも軸が外れちゃう原因は主に二つあります。
一つはゼンマイが巻いてある時に機械をバラしちゃった場合。この時は噛み合わさった歯車が外れたり、ターンテーブル軸からウォーム歯車が外れた瞬間、ジャーっと数秒のうちにゼンマイが緩みその勢いで軸が外れちゃいます。ウォームホイールが異常に磨り減った機械を見かけることがありますが、それはこれをやっちゃったんですね。ガバナーの調整中に起こしやすい事故でもありますので、その際は必ずゼンマイを緩めてからにして下さい。
もう一つはゼンマイが緩んでいるにも関わらず、音出しとか様子を見ようとしてターンテーブルを順方向に何回転も手で回しちゃった場合です。緩みすぎてやがて軸がゼンマイの穴から外れちゃうと言う現象です。
ゼンマイや軸に問題ないにもかかわらず外れてしまった原因のほとんどは、上記のいずれかです。みなさまご注意を!
 
アーム部材
アーム部材

続いて妙に回転抵抗のあるアームベース部の補修です。

バラしてみると案の定、アームの繋がる左の真鍮リングが付く部材と、中央のアームベース本体との間でけっこう滑り抵抗がありました。写真でアームベース内側の汚れているものがその原因ですが、古いグリスか何かがゴムのように固まって貼り付いていました。
 
アームベース補修
アームベース補修

アーム、アームベース部材の余計な接着剤をきれいに取り去り清掃します。

上写真で真鍮リングの付く回転部材とアームの嵌合は接着剤となる膠が剥がれかかっていて、熱をかけることもなく簡単に外れました。その膠をカッターの刃先やサンドペーパーできれいに取り去り、アームベース内側のこびり付いた汚れも同様に仕上げます。
アームの摺動回転はアームベースの木質面と真鍮リングとの間で起こります。異種材料の組み合わせは摺動部での鉄則ですからね。これが同金属同士、木質同士ですと滑らせるための油やロウが必要になりますが、異種材料の組み合わせではそれが必要ないか最小限の使用で済みます。
最後にこの種の補修ではお馴染みのタイトボンドでアームと真鍮リング部材を接着し直し完了。
 
インサイドフォースキャンセラー
インサイドフォースキャンセラー

ところで、このコイルバネはなんだと思いますか? って、もう言っちゃってるけど ^^;

バラす時に分かりましたが、実はバネのねじりを利用したインサイドフォースキャンセラーなんです。蓄音機のアームでこのような機構を見たのは筆者はこれが初めてでした。考えてみれば回転が速く針圧の大きな蓄音機では十分その意図する目的に納得出来ます。
オーディオマニアにはお馴染みと思いますが、アナログレコード再生ではトーンアーム(正確には針先)にかかる力の合力として再生中内側に向かう力(インサイドフォース)がかかっています。これを打ち消すためアナログプレーヤに付く高級アームでは、外側(回転軸に対して反時計回り)に軽く重錘やバネで力をかけています。インサイドフォースを打ち消すからこれをインサイドフォースキャンセラーと言うんですね。それをこの蓄音機ではやっていました。ちょっとびっくり!
正直蓄音機レベルで・・・・なんて当初は思いましたが、前述のようにその必要性は十分納得させるものがあります。この蓄音機では後述のアーム吊り装置を使用した状態でバネの強さを調整し、使用済みの針先を見ても片減りがほとんど無いことを確認しています。当然レコードにも優しいと言えるでしょう。これもドイツ職人のこだわりでしょうか?

尚、アームの取り付け位置や形状、サウンドボックスの角度(オフセット角)など、すべての蓄音機で必ずしも同様のことが言えるとは限りません。それでも使用後の針先をルーペで見て、筆者の経験上多くの蓄音機では針の内側(レコード内周側)が大きく磨り減る傾向にあります。それがすべてインサイドフォースの影響とも思えませんが、そのような削れ方をする蓄音機では一応その影響を疑ってみてもいいかもしれません。
逆に針の外側が大きく削れる蓄音機では、アームの動き(回転)に抵抗があるとか、どこかのバランスが狂ってるとか、他の原因が隠れているのかもしれませんね。

いずれにしろ、ステレオ再生ではありませんから余り神経質になる必要はありませんが、レコードから見て内周面側ばかり針の当たりが強いとしたら寿命的に好ましくないのは確かでしょう。
参照 : アナログレコード再生のインサイドフォース
 
ブレーキ補修
ブレーキ補修

ブレーキのゴム交換を行います。

入手時のブレーキはゴム質が完全に磨り減り、ターンテーブル外周とブレーキゴムを包むピストン部分が金属同士で接触していました。
そこで左下写真のように輪ゴムと同質のゴムを貼り付けてみましたが、これでは柔らかすぎてまったく滑りがありません。ブレーキをかけた途端滑ることもなくキュッと止まるのはいいけど、数回の使用で撚れて剥がれ飛んでっちゃいました。
そこで金属との間でもある程度滑りのあるもっと固いゴム質材がいいだろうとホームセンターで探し出し、白い防振ゴムを利用しています。それを大まかに加工し右上写真のように嵌め込んで、ちょうどいい効き具合であることを確認しました。
最後にバカになったネジ穴に半硬質接着剤を流し込んでおき、ブレーキOFF状態で1mm弱程度の隙間となるよう固定し直し完了。
 
オート、手動兼用ストップ機構
オート、手動兼用ストップ機構

この蓄音機のブレーキ機構は独特で、オート、手動兼用となっています。上写真がオート使用時、下写真が手動時です。

玉の付いたレバーを起こすか寝かせるかでブレーキがOFFとなり回転が始まります。起こした時のオート状態ではアームが内側に寄って来た再生終盤、そのアーム側面で玉を押しはじめ、やがてレバーがストンとダイキャストの溝に嵌りブレーキが掛かります。
手動ではレバーを寝かせて回転させ、再生終了後溝に嵌るまで起こしてブレーキをかけるということになります。
合理的というのか原始的というのか? でも良く考えられていますよね。
 
アーム吊り治具1
アーム吊り装置1

手で持った感触からも思いっきり重いなーと感じていた針圧ですが、計ってみると250gもありました。

原因は主に木製アームの重さと考えられます。それでも2丁ゼンマイ機械に十分力はあり、クラシック音楽が目一杯録音された12インチ盤1面くらいかけるのになんら問題ありません。とは言え、その重さはレコードの傷みが心配になるほど。いくらインサイドフォースキャンセラー装備と言っても、さすがに250gは重すぎる。実際、スレの目立つSP盤ではトレース跡が白くなって粉が出たり、連続演奏の2面目では途中で止まっちゃったりしていました。
そこで上写真のようなゲート状の台を作り、アームの回転軸付近からステンレスの金具を延ばし、スプリングで上から吊るような装置を製作しました。針圧が100g強程度となるようスプリングの伸びを調整し、演奏させた状態が上写真です。
ところが、予想に反してアームの回転にステンレス金具が上手く付いていってくれません。レコード内周部ではステンレス棒は動かないままスプリングが斜めになって伸びちゃいます。当然針圧もレコードの内と外で違うだろうし、思いっきりインサイドフォースがかかっちゃいます。上蓋もこのままでは閉められないし取り扱いもイマイチ。これは失敗例となりました。
 
アーム吊り治具2
アーム吊り装置2

それではと考え直し、2台目に作ったのがこちらの装置です。

L字型枠からアーム回転軸上に支点となる金具を延ばし、そこからスプリング付きのワイヤーでサウンドボックスの取付部分を支えます。支点金具への引っ掛け具の長さを調整しこの状態で針圧約100gとしました。アームが回転しても追従性にまったく問題なく、スプリングは常時引っ掛けておけます。演奏中も休止中も取り付けたまま上蓋が閉められ、アーム操作にもまったく邪魔とならないので取り扱いにも問題ありません。
これでゼンマイ1回の巻き上げで、10インチ盤3面の連続演奏が可能となりました。(^^)(^^)
 
試聴
試聴

一連のレストア完了後試聴を行いました。

付属サウンドボックスは「Victory sound box No.1」と言うジュラルミンダイヤフラムのもので、明らかにオリジナルとは違うようです。でも状態は良さそうでそのまま使用しています。アームに取り付けられない問題は径がわずかに合わないだけでしたので、サウンドボックス側の樹脂パッキンを少し削り込んで対処しています。

肝心の音は思った以上に雄大に響きちょっとびっくり。そこで現在は、手持ち「HMV 5B」や「Columbia No.9」を付けるアダプタを製作して楽しんでいます。前述のように開口径の比較的小さな木製ホーンでしたが、床置きで観音扉を開いて聴くと音量も中〜低域の量感もたっぷりあります。
現在、下写真のように手持ち代表機3台を並べて聴いていますが、それぞれ音質に特徴はあるものの甲乙付けがたくいずれも大音量で良く鳴ってくれます。この機種ではホーンが効いてか、特に中域が充実しているように感じられました。
 
代表3機種大きさ比較
ついでに手持ち卓上機との大きさ比較です。
左からVictor VV1-90、ANKER AMATI、Columbia No.115です。ANKER AMATIの大きさが分かりますよね。
 
新規追加 2009年 7月25日
 
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