Victor/Victrola VV1-90卓上蓄音機/改
最終更新 2011年 8月28日
 
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ビクター/ビクトローラ卓上蓄音機のフラッグシップ、「VV1-90」です。入手時より電動モーター仕様に改造された完全ジャンクでしたが、筆者流にメンテナンス&リメイクして現在のメイン機種として活躍しています。

ビクター上位機種のアイデンティティー、木工製リエントラントホーンを内蔵する卓上機最上位機種が「90シリーズ」です。この機種本来の機械は後述のオーソドックスな1丁ゼンマイ機械ですが、後に91、92とマイナーチェンジされ、木工ホーンはそのままに2丁ゼンマイ機械にも対応しています。

ビクター卓上機には30〜90まで各シリーズがあり、ストレートホーンを基本に80シリーズの一部と90シリーズがリエントラントホーンとなっています。いずれも木工製ホーンを内蔵し、筆者的には60の長尺ストレートホーンと、こちら90のリエントラントホーンがお気に入りです。シリーズを通して機械とサウンドボックスは基本的に同一(細部の違いはあります)ですが、ホーンとその作りは大きく異なりそれぞれの個性となっています。また、サウンドボックスはオルソフォニックがオリジナルながら、後述状態により現在では手持ち HMV No.5B サウンドボックスに交換しています。
主な仕様(自己調べ)
筐 体 実測/幅50cm×奥行き46cm×高さ36cm  開口時高さ約60cm  重量約16.5kg
ターンテーブル 12インチ(約30cm)
機 械 電動モーター改造 (オリジナル : 1丁ゼンマイ機械)
サウンドボックス VICTOR ORTHOPHONIC
ホーン  木工製リエントラントホーン
時 代 1927〜28年頃(昭和初頭)
その他 初期型(シリアル3936)/電動モーター改造
 
 
入手時状態
外観は突板剥がれもなく多少の傷程度と比較的良好。っが、開けてびっくり玉手箱? 中身は・・実に・・・いやはや・・・・^^;

銘板のシリアルは「3936」ですから初期型と言って良いでしょう。目立つ部分ではサランネットがボロボロ。ホーン内は土埃が堆積してドロドロ。蓋を開けた内部は電蓄改造時使用したらしいアームセットの残骸と、幸いなことにオリジナルと思われるアームセットがそっくり残っていました。パネル面には後付けのボリュームやスイッチと危なっかしい配線が・・・・^^; これらはすべて撤去! でしょうね。
まさに完全ジャンク! こりゃレストアも気合い入れなくちゃ・・・・
 
入手時状態2
操作パネルを外すと、ネズミに囓られたホーン口が・・・・^^; でも幸い致命傷はなさそう (^^)

そのホーン囓りカスと一部配線材も囓られホーン上にはゴミがいっぱい。パネル面も酷い汚れだけど、幸い水を被った訳ではなさそう。化粧面に波打ちなど浮きや歪みは無く大丈夫。上述のように電蓄化の跡として、モータースイッチやピックアップの音量ボリュームなどあります。ターンテーブルの軸穴はスピード調節レバーが付けられるよう広げられ、配線材と共に各部材の取付も加工も余り上手とは言えず、こう言っちゃ悪いけど素人仕事?
 
入手時状態3
こちらは筐体内部を簡単に清掃した状態です。

サランネットが無いと何と言ってもホーンの開口部が目立ちます。このホーンこそこの蓄音機の個性であり命と言って良いですからね。それ故、機械がモーターに替わっていてもサウンドボックスからホーンまでが替わってなければ、音的にはこの機種の個性も失われてないだろうとの判断です。
底面から見るとホーン自体が実は底蓋を兼ね、四隅の駒と後述の横ネジで筐体に固定されています。それらのネジを緩めると底面からスポッとホーンが取り出せる構造です。
 
パネル面メンテ
レストア初めはまず、操作パネルのメンテナンスから。

モーターなど部品類を外し、固まったゴム類を手製リムーバーで削り取ります。濡れタオルで繰り返し拭き上げ、一応の汚れが落ちたところでセラックニスを塗っています。右下写真のようにきれいに蘇りました。写真中の大きな部品跡はオートストッパーのものです。
 
モーター&ガバナーメンテ
一応回ることは確認できたモーターですがなんか変? 猛スピードで回るか止まるかで調整できない!

っで、外せる部品はすべて取り出し分解清掃。左上写真で黒い固まりに見えるステータ(固定子=電磁石)の中をロータ(回転子)が貫通し、その軸の途中にウォームが切られています。ウォームにはターンテーブル軸となるウォームホイールが嵌合し、ロータの先端にはガバナー構造があります。このスピードコントロール法は基本的にゼンマイ機械と同じです。ガバナーの小ディスクへパッドを押し付け機械的なブレーキをかけ、言い換えれば無理矢理負荷を加えて回転スピードを落とす・・・・それは回転しているモーター軸(ロータ)に直接ブレーキをかけているのとイコールで、現代の目から見ればオイオイ!ってかなり危険な方法!?
スイッチON状態でブレーキを強くかけ、止まってるものと勘違いして放置したら・・・・それでも電流は流れっぱなし。ゼンマイなら問題ないけどモーターでそれやっちゃーヤバイでしょ! 温度ヒューズが入ってるようにも見えないし、最悪発火する危険だって・・・・^^;

ってことで、それは気をつけるとしてスピード調整不能の件。実はガバナーの嵌合を誤ったまま組み立てられていました。分解時は右上写真のようになっていて、正しくはその下のようにディスク側を180度回転させ、遠心力で重錘が開いた際ディスクを押し出すように働かなければなりません。これは正しく組み直し各部にグリスアップしてOK。
 
ブレーキメンテ
まるで銃弾のようなソケットのブレーキパッド交換を行います。

ほとんど磨耗した古いフェルトを抜き取り、新しいフェルトを折り曲げてソケットの穴に押し込みます。たっぷり油を湿した後それを機械に取り付け完了。
スピード調節は下写真でターンテーブル軸左上に突き出ているレバーを左に動かすことにより、ソケットを出し入れして行います。けっこう厳しい作りですよねー・・・・^^;
 
電気配線
電気配線をすべてやり直します。

まずモーターからのケーブルに新しい線材を圧着留めします。色分けしましたが交流100Vなのであまり意味はありません。新たにスイッチと電源ケーブルの接続コネクタを用意し、その取り付け用に板材を切り出し塗装しておきます。手持ち塗料で筐体と色が合わないのは愛嬌ってことで、機能上支障ないところは手抜き? まあ、後から色合わせも出来るし・・・・どうせやらないけど・・・・^^;^^;
さて、スイッチをパネル面、コネクタを筐体後面に穴明けして取り付けます。電源ケーブルは右側面のクランク穴から直接出しても良かったのですが、前からそれが見えるのもなーと、あえて筐体に穴を開け後面に回しました。
後はモーターからスイッチと、念のためヒューズホルダを直列に繋ぎ端子板に接続。その端子板と後面の接続コネクタを配線して完了です。
 
ホーン取り外し
ホーンは筐体底面から抜き取ります。

まず底面から四隅の台形駒を取り外します。錆びた木ネジが1本欠けてしまいそれぞれの微妙なネジ位置の誤差もあるだろうと、後で場所を間違えないよう駒とホーン双方の隠れる位置に印を付けておきます。
筐体上面からホーン左右にある留めネジ(赤矢印)計4本を緩めます。これで筐体からホーンを引き抜けば取り外し完了です。
 
ホーンメンテ
ネズミに囓られたホーン口をパテ埋めして仕上げます。

半分欠損していたコルク板を剥がし、木工用パテを盛っておきます。十分乾かした後、ヤスリやサンドペーパーで仕上げれば右下写真の通り。
 
ホーンメンテ2
ホーンロードに穴は御法度。実際は蓄音機レベルで?・・・・って言う話しなんですが・・・・^^;

とにかくここは気分の問題。隙間があるなら塞ぐべき! 人に譲るものでもないし自己満足を優先!
ってことで、まず現状見える範囲の内角や合わせの隙間を木工用接着剤やパテを盛って塞ぎます。これで右上写真のように乾けばOK。
最後にホーン開口部に堆積した土埃を削り取り掃除機で清掃し、ついでにエアーをよく吹いて完了。
  
木工製リエントラントホーン
木工製リエントラントホーン

アームからの音道は赤矢印のようにホーン内を通過します。後部中央から前に走り、二手に分かれながら後ろ、前と向きを変えて開口部で合わさります。サウンドボックスから全長1.5m程の長い音道を確保することにより、低音再生に有利で且つ大音量を作り出しています。
このホーンが評価の高い理由は下写真でも分かるように、寄木造り(寄木細工)のようなソリッド木片で組み上げられていることによります。ホーン内部の曲がりくねった部分が小さな駒を組み合わせた手の込んだ構造になっているのです。この手の細工は仏像や寺社など木工に長けた日本の職人にはお手の物で、本国アメリカより国産の方が良いとの意見もあります。
 
アームメンテ
アーム周りのメンテを行います。

まず台座とホーン口を塞ぐゴムがすっかりヨレヨレなので取り去り、回転部も抵抗があるので分解清掃&注油。錆落としした後薄く油を塗り、ウェスで磨き上げまず。オリジナルのナチュラルな質感を残すため金属磨きは使っていません。
 
アームメンテ2
アームとホーンを接続します。

ホーン口に市販のコルクテープを貼り付け、台座裏には彫刻刀で穴を開けた板ゴムを貼り付けます。これにはけっこう大きなゴムが必要で2枚合わせとなりました。Oリングを使えれば良かったのですがこの大きさで厚みの合うOリングが手に入らず、1個だけ注文するのも面倒と手持ち部材を使用しています。
 
ターンテーブルメンテ
ターンテーブルシートをフェルトに交換しました。

12インチターンテーブルに10インチゴムシートが置かれすでに角質化してボロボロ。それをリムーバーで剥ぎ取り、錆取りを兼ね軽くオイルストーンで仕上げておきます。外周部の錆び付きもきれいに落とし、黒塗装して前処理は終了。
その上に丸く切ったフェルトシートを置き、軸穴はR刃の彫刻刀で空ければ問題ありません。周囲部をターンテーブル外周の溝に押し込んで行けば完了。きれいに蘇りました (^^)(^^)

尚、この種のシート生地は手芸店にたくさんありますのでお好みで選べます。
 
サランネット貼り替え
ボロボロのサランネットも剥がして貼り替えました。

ほとんど残骸となったサランネットを剥ぎ取ります。ネットの上部は細木を嵌め込んで固定していますので、その細木も折らないよう気をつけて抜き取ります。用意した生地を枠よりやや大きめに切り、まず先の細木を埋め込んで上側を固定。枠の残った3面に筆で澱粉糊を塗り、生地の織り目が歪まないよう、また皺にならないよう割り箸など添え木にして軽く伸ばしながら折り返して巻き付け、クリップで固定しておきます。上がった枠を筐体に差し込めば完了。

貼り替え用生地はオリジナルが手に入ればいいのですが、実際はあっても経年により弱っていることが多いでしょう。現実的にはこちらも手芸店などにたくさんの生地がありますので、それらからお気に入りの色調、織り目、厚みなど確認して選びます。
ファンシーショップでテーブルクロスとして売っているインド綿の生地など、シーツのように大きく織り目も緩く適度に荒れていて雰囲気バッチリ。おまけに1000円程度とリーズナブル (^^)
 
外観メンテ
外観傷のメンテナンスを行います。

当たり傷、引っ掻き傷など茶系の傷消しペンで補色し目立たなくします。前面右下の傷はネズミの噛み傷のようでしたが、幸い表面だけでしたのでこちらも同じように補色して完了。ストロボ光で補色部がやや浮いて見えますが、清掃&ワックス掛け後はほとんど目立たなくなります。
 
サウンドボックス
サウンドボックスはオルソフォニックがオリジナルです。豊かな音量とレンジの広さは折り紙付き。

しかし、ダイキャスト筐体には経年によるヒビ割れが非常に多く、残念ながら状態の良い物は少ないと言うのが実情です。当時のダイキャスト技術では材料の精製と熱履歴、設計や加工上の問題もありこの種の経年によるヒビ割れが半ば常識的にあります。本機付属は米国製のサウンドボックスで状態は細かなヒビ程度と比較的良かったのですが、ダイヤフラムに小さな傷みがあり現在は下写真の手持ち HMV No.5B サウンドボックスに交換しています。とは言え、その5Bの筐体だってダイキャストなんだけどね・・・・^^;
実は切削によるオルソフォニックもあるにはあるのですが・・・・それは値段が・・・・^^;
 
ゼンマイ機械
本来の機械はこちら1丁ゼンマイ機械です。

左は「91」に付いていた機械、右は予備用の手持ち機械です。表・裏でずいぶん違って見えますが同種の機械です。ガッチリした鋳物フレームに支えられたビクター独特の機械で、上下2枚の地板に挟まれた良く見る機械構造とはかなり異質な感じがします。
また、蓄音機のゼンマイは一般に香箱と同等程度の大きな歯車を回して巻き取る機械が多いのですが、ビクターではその歯車径をずっと小さくしているため半分程度のクランク巻き数で済み大変効率的に巻けます。反面クランクはやや大型になりがちとは言え、やはり巻き数が少ない方が楽とは言えるでしょう。
ガバナーに付く重錘が右の機械の方が小さく、おそらくこちらの方が古い機械でしょうね。
 
完成パネル面
レストア完了した内部です。

ターンテーブル右に出ているレバーがスピードコントローラー、右下の赤いトグルスイッチ(レバースイッチ)がモーターのON−OFFです。スピードコントローラーは一度設定すればその後はモーターのON−OFFだけでOK。ブレーキはありませんがモータースイッチOFFですぐ止まり操作感は抜群。回転トルクもゼンマイ機械よりはるかに大きく、酷いスレ盤や磨り減った鉄針で試しても問題なく再生可能です。レコードを載せた回転状態でレコードクリーナーやブラシをぎゅうぎゅう押し付けても大丈夫。これはレコードのメンテ用にも常用機としてもあっていいなと! ストレスなく回るなら音には直接関係ない機械部分ですからね。
さて音質ですが、付属米国製オルソフォニックによる音質は朗々と雄大に、いかにもフラッグシップらしい響き具合が秀逸です。どちらかというとクラシックやビッグバンドなど、中〜大編成で周波数レンジの広いオーケストラ物が得意なように感じました。しかし、単に筆者の好みに合わないと言うだけでしょうが、ボーカル物はちょっと・・・・違うな〜って・・・・。大音量とレンジの広さが逆に災いし声を前に出してくれないと言うか、その雰囲気や艶のようなものを伝えきれない感じ。楽音でマスクされちゃう感じと言ってもいいでしょうか?
交換して使用している5Bでも基本的に似た傾向は感じますが、意外にも曲種を選ばずけっこう何でも聴くことができます。一般にはナチュラルで落ち着いた5A、メリハリの5Bと言われることが多いと思いますが、筆者の5Bはその意味では万能選手です。経験上同じ種類のサウンドボックスでも状態によりかなり音質が異なり、アンティーク故ダイヤフラムやダンパーの交換も当たり前のようにあるでしょう。あくまで手持ち品で聴く筆者の主観と言うことですので誤解なきようご理解下さい。

いずれにしろコロンビア115と並び、筆者のメイン機種としての地位に揺るぎはありません。
 
代表3機種大きさ比較
手持ち卓上機との大きさ比較です。
左から本機Victor VV1-90、ANKER AMATIColumbia No.115です。VV1-90も卓上機としては大形の部類に入りますが、それにしてもANKER AMATIの大きさとコロンビアの可愛さが分かりますよね。
 
新規追加 2011年 1月 5日
 
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