オーディオ職人、「QUAD」 020527 No.06
 
QUAD(クォード)は一徹である。
かなり凝り性の職人が集まった企業でもある。きっと!
いや、かなりどころかオーディオ界一般からすれば偏執狂の集団かもしれない・・・^^;
日本ではとても考えられない「オタク(←死語?)」集団が企業として成立する、実にうらやましい?国、イギリスの老舗オーディオメーカーである。タンノイやセレッションなどを例に挙げるまでもなく、イギリスにはこの種の職人気質を持ったオーディオメーカーが多い

1936年、ピーター・J・ウォーカーにより創立されたQUAD(アコースティカル・マニュファクチュアリング社)は、まず高級アンプメーカーとしてそのスタートを切る。現在まで続くアンプメーカーとしてのQUADは、まさに老舗中の老舗なのである。イギリス・BBCで使用する多くのモニタアンプも、昔からQUAD製であったという。イギリス製アンプの代表といえば、今も昔も常にQUADだったのである。

その昔、日本ではテクニクスの発表したコンサイスコンポ(商品名)を起爆剤に、小型高密度の高級オーディオが席巻する時代があった。現在その種のコンポは「高級」の枕詞が抜け、単に小型軽量だけの低価格オーディオと成り下がってしまっている。しかし、QUADは創業当時から現在まで、アンプの世界で常に小型高密度の代表である。
QUADアンプのほとんどは幅300mmちょっと、高さも100mm前後しかない。マンガ本2〜3冊を重ねた程度の大きさと言ってもいい。視覚的にも価格的にも物量と迫力で迫る高級アンプの世界にあって、まったく正反対に位置する控えめな、しかしいぶし銀の渋さを持ったアンプである。良い意味で中庸を行くその音は素直な性格が最大の特徴であり、決してスピーカーの選り好みをしない。回路は単純だし周波数特性も広くはない。悪く言えば突出した所のないアンプなのだが、それでも後に述べる特殊なスピーカーを平気で駆動するなど、ドライブ能力は極めて高い。
「山椒は小粒でぴりりと辛い」イギリスにそんなたとえが有るのか知らないが、そういう表現がピッタリの高密度アンプ。それは音にも形にも、現在まで脈々と受け継がれている。

さて、それではQUADのアイデンティティーはアンプなのか?
いや、実はそれがアンプではないのだ。「ESL」なのである。
ESLとはエレクトロ・スタティック・ラウドスピーカーの略。一般に言うコンデンサー型スピーカーのことである。コンデンサー型スピーカーとは、振動板となる薄いフィルム電極とそれをサンドイッチした固定電極とを持ち、高電圧によるクーロン力(静電気力)でフィルム全体を駆動するというもの。詳細は省くが、全面駆動という極めてレスポンスに優れた、スピーカーの一つの理想を示す姿でもある。
1955年、QUADの手により世界で初めて製品化されたESLは、その極めて繊細且つ感覚的とも言える中高音域の魅力で、一世を風靡するに十分な資質を持っていた。この魅惑的な音質は多くのオーディオファン、音楽ファンを虜にし、特に人の声の再生に掛けては独壇場であったと言われる。それはヨーロッパの大音楽メーカーでもあるフィリップスが、自社製品を押しのけてまで録音時のモニターとして使用したことでも有名である。またすでに生産中止となった現在でも、世界中で根強いファンを獲得していることからも明らかだろう。
しかし、当時のESLには克服困難とも思われた大きな欠点もあった。ESLは駆動のため数千ボルトの高電圧をかける。そのため入力を上げすぎて電極同士が近づき過ぎる、または日本の梅雨時のように湿度の高い時にはスパークを起こす事があり、駆動フィルムを焼き切り穴を空けてしまうことがある。最悪の場合燃えてしまうという、今で言えば欠陥とも指摘されかねない問題があった。更に低域の量感を出すことが難しく、スピーカーとしてのセッティングも取り扱いにも、極めてデリケートなスピーカーであったと言われる。

やがて、年月を経て「ESL−63」が登場する。
名前は1963年に開発が始まったことによるが、完成までには何と20年近い年月を要し1981年夏まで待たねばならない。長期の開発期間をかけ一徹に商品化を図る姿は執念以外の何者でもないだろう。ESL−63はQUADの考える音楽再生の理想を、スピーカーとして具現化したものであった。
詳述しようとすると本が1冊出来てしまうほどの、極めて独創的なアイデアと執念。そしてそれを具体化するテクノロジーの結晶である。初期ESLの持つ繊細華麗な魅力のすべてを継承し、同時にすべての問題を解決するという困難に立ち向かったQUAD技術陣の姿には、同じ技術者として(分野は違うが)敬意を禁じ得ない。

そして数年後、ESL−63は筐体の強度を増し耐入力など細部をマイナーチェンジした「プロ仕様」も加え現在に至っている。発表からすでに20年以上、発売から20周年を迎えているのだ。
ESL−63はQUADが提案した「完成されたスピーカー」の姿なのである。

さて、最近ESL−63の後継機とも言うべきモデルが発表された。完成されたスピーカーにもおよそ20年の歳月を経て、再び修正が加えられたのである。内容的にはマイナーチェンジ版のようだが(ESL−63の完成度が高かった証でもある)、久しぶりに動きを見せたQUAD。果たして今後どのような展望を抱いてるのであろうか。
 
ESL-63PRO 
QUADサイトはこちら ⇒ Quad - the home of hi-fi
 
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