チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番
〜ピアノ演奏の頂点を知るために〜
最終更新 2006年9月30日
 
何の世界にもその道の評論家や「通」と呼ばれる人たちに言わせると、興味の対象外とされるものがある。クラシック音楽の世界ではベートーベンの「運命」と並び、この曲などその最右翼となるに違いない。彼らにはポピュラー的地位を勝ち取った有名曲は初心者の聴く音楽で、我々のような大家はすでに聞き飽きたし、可笑しくて聴けないと言うことらしい。
それほどまでに大衆的人気を勝ち取ったピアノ協奏曲である。有名曲には珍しく表題がないので「ピアノ協奏曲第1番」などという無粋な紹介になるが、冒頭の5音を聴いただけで誰もが「この曲か」と納得するほどよく知られている。
曲の最大の特徴はその冒頭に響く雄大なスケール感と、ピアニズムの極致と言われるようなヴィルトーゾ演奏にある。つまりは非常に技巧的な困難を伴うと同時に、成功すればこれ以上ないというほどの派手な演奏効果が上がる曲なのである。
そんな外面的要素を嫌ってか、巨匠クラスのピアニストでも一度も演奏したことのない人は多い。かの「通」たちが敬遠するのも、ポピュラー化と共にたぶんそんなところも理由になっているのだろう。
第1楽章は非常に起伏が激しく、楽章中にクライマックスが何度も訪れる。
まず冒頭は先の雄大な旋律が、ピアノとオーケストラによって3〜4分にわたり繰り広げられる。誰もが知っている有名部分である。しかしこれほど印象的な旋律なのになぜか曲中二度と登場しない。実はここは序奏と呼ばれる部分で、曲としての本編にはあたらないのだ。
いったん静まるとピアノに落ち着きのない旋律が現れる。続いて気分の異なる美しい旋律も現れ、この二つがいわゆる主題と呼ばれる旋律である。まもなく1回目のクライマックス。
オーケストラが同じ旋律を執拗に繰り返し始めると再び大きく盛り上がり、その頂点でピアノが雪崩のような激しいパッセージ(打鍵)を繰り返す。大きなうねりの中から聞き覚えのある主題も時々姿を現すことだろう。やがて2回目のクライマックス。
このクライマックスからピアノはそのまま続けて、ヴァイオリン協奏曲(ベートーベン)で説明したカデンツァとなる。
数分してオーケストラが進入してくると最後の(本当の)クライマックス。これでもかというベートーベン風の執拗な音型を繰り返し、大きく印象的に楽章を閉じる。
弦の伴奏でフルートが導入してくる第2楽章は静かに美しく始まる。伸びやかな旋律が中間部でいったん、急速なリズムで落ち着きを失った後、再び美しい旋律が戻ってくる。
先のヴァイオリン協奏曲と同じで典型的な第2楽章の構成をとる。A−B−Aという3部から出来ていることから、これを「三部形式」と呼んでいる。
第3楽章はティンパニの1発から始まり、交互に現れる激しい旋律と美しい旋律が繰り返される、これも典型的な「ロンド」である。
最後にオーケストラがにわかに盛り上がり、いかにもという雰囲気で迫ってくる。頂点で再びティンパニの一撃。ピアノとオーケストラが壮絶に絡み合った、全曲のクライマックスを迎えて曲を閉じる。
この欄で協奏曲の紹介は2回目だが、ヴァイオリンとピアノ、ベートーベンとチャイコフスキーの違いはあっても、各楽章の構成はほとんど同じであることに気付かれたと思う。一般的有名曲はだいたいこんなものなのである。
チャイコフスキーの音楽は最初に紹介した「悲愴」、今回の「ピアノ協奏曲」、そしていずれ紹介しようと思っている「ヴァイオリン協奏曲」など、いずれも極めて大衆的で取っつきやすい。その大衆ウケするところがお堅い専門家から嫌われるのも事実である。
どちらが音楽本来の姿であるかはみなさんの判断にまかせることにしよう。
 
超有名曲だけに名盤も多い。今回は特にその中から2枚を上げておこう。
推薦盤1

ピアノ : スヴャトスラフ・リヒテル
カラヤン指揮ウィーン交響楽団
CD番号 : POCG−90057(1962年録音)
20世紀後半のピアノ音楽界の巨匠として五指に入るであろうリヒテルが、旧ソビエトから西側にデビューしてまもなくカラヤンと録音した名盤である。
多少古い録音となってしまったが未だにベストに上げる人も多く、その壮大なスケール感に圧倒されるだろう。
今では珍しくなってしまったと思われる、ベーゼンドルファー(ピアノメーカー)のピアノを使った重厚な録音であることも特筆物である。
推薦盤2

ピアノ : マルタ・アルゲリッチ
コンドラシン指揮バイエルン放送交響楽団
CD番号 : PHCP−1697(1980年録音)但し現在は再発で廉価盤になっていると思われる。
男勝りと形容されることの多いアルゲリッチが、男勝りでなく男以上の強靱なピアノ演奏を繰り広げる。
ライブ録音で真価を発揮するアルゲリッチらしい録音なのだが、音質があまり良いといえないのが唯一残念。
 
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