「運命」と「未完成」
〜超有名曲の最強タッグを聴きたい人に〜
 
クラシック音楽界の最強タッグとして昔から極めて有名な両曲の紹介である。
両曲とも単に屈指の有名交響曲というだけでなく、レコードとしてはその演奏時間も無視出来なかったらしい。30分余りの「運命」をレコードの表・裏に分けちゃうと、LPではちょっともったいない。そうだ20分ちょっとの「未完成」と表・裏に分ければいいじゃないか、ってな感じだろうか。このタッグは何も日本だけではないらしく、欧米でもこのカップリングは一般的らしい。むしろクラシックレコード自身海外レーベルからの輸入が圧倒的に多いことを考えると、欧米の方が本家なのかもしれない。
もっともCD時代になって録音時間に余裕が出来、最近は両曲のタッグも解消しつつあるようだが。
ベートーベン交響曲第5番「運命」は、運命とはこう扉を叩くのだという、例の「ジャジャジャジャーン」の出だしでまことに有名である。話ではベートーベンがそう言って説明したということで、これまた的を射て良くできたエピソードなのだが、ほんとは後世の作り話らしい。欧米や権威と格調を重んじる人たちの間では「ベートーベンのハ短調交響曲」という呼び方の方が一般的なようで、「運命」とか「第5番」という呼び方は日本だけの特殊事情のようでもある。
まあいずれにせよクラシック音楽そして交響曲の歴史上、古今の傑作であることに疑いを抱く者は少ないだろう。
第1楽章は冒頭から「ジャジャジャジャーン」で、何でもこの音型(クラシックでは特に動機という言い方をする)は楽章中に200回だか400回だか出てくるらしい。とにかく執拗に繰り返される。まったく偏執狂である。楽聖ベートーベンがこれをやっちゃったもんだから、後の作曲家は思いついても真似だと言われるのを恐れてか、これほどハデなものは私が知る限りない。この楽章はこの動機がすべてだから、カウンタがあったら集中力を持って数えてみよう。音楽を楽しむのはそれからでも遅くはない。
第2楽章は穏やかに始まり、先の楽章と同じ動機も金管などに間延びして「ジャン・ジャン・ジャン・ジャーン」と出てきたりする。
第3楽章も同じく金管に「パパパパー」と動機が出て、うごめくような音楽が展開されていく。やがて長いホルンの持続音が弱くこだました後、にわかに盛り上がって来たかと思うと第4楽章に突入である。よく言われる苦悩(第1楽章)から歓喜(第4楽章)へという、その歓喜の楽章なのだ。ファンファーレのような金管の音に乗って終始ゴージャスに響きまくる音楽は確かに爽快で、いかにも歓喜にふさわしい演出効果を存分に発揮してくれることだろう。ここでも例の動機が弦楽などに「タタタター・タタタター」と繰り返されていく。
そして最後はこれぞ偏執狂の面目躍如と言うまことにくどい、いつ終わるんだという和音の連続で大きく曲を閉じる。
ちなみにこの曲のように、一つの動機が全曲にわたって繰り返されていく曲のことを「循環形式」と呼ぶ。ベートーベンがこの曲で後世に与えた影響力は、計り知れない程の重要なものであるらしい。
 
シューベルト交響曲第8番「未完成」は、2楽章を書いて3楽章目に入ったとこで、なぜか作曲をやめてしまったということでこの表題がついている。楽譜が発見されたのは作曲者が亡くなった数十年後で、シューベルト自身はこの曲の演奏を聴いてない。1930年代頃のドイツ映画にはこれを題材にした「未完成交響楽」というのがあり、失恋により曲を中断したというシューベルトの恋のエピソードは、この辺から定着したのかもしれない。
実際に何があって中断したかは定かでないが、4楽章まで書いていれば当時としては長大な交響曲になっていたことだろう。
第1楽章は極めて静かながら忙しなくうごめく弦楽に乗った木管が、美しくもどこか不安げな旋律を吹き始める。弦楽には穏やかな旋律も現れ、特徴的なリズムに乗って何度か盛り上がる。
続く展開部と呼ばれる部分ではブルックナーの交響曲を思わせる壮大な盛り上がりがあり、耳に付く「タンタタンタ」というリズムが心地よい緊張感となって聴き手に迫ってくるだろう。
再現部という繰り返しを経た後、最後は決心したかのような力強い和音で曲を閉じるが、この辺はベートーベンの影響を感じなくもない。
優しく慈悲深いかのように始まる第2楽章は、時に宗教的な感覚を抱かせる。穏やかな瞑想的音楽と、時折現れる決心をあおるような激しい音楽が交錯していくが、最後は安息のうちに終了する。
 

推薦盤

ベートーベン 交響曲第5番 ハ短調 「運命」
1.カルロス・クライバー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1974年録音 独グラモフォンレーベル
  どちらかと言うと現代的な「運命」。ぐいぐい引っ張っていくタイプの演奏である。
2.フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1954年録音 エンジェルレーベル
  こちらはいかにも巨匠的で、揺るぎなく悠然とした雰囲気の演奏。
  古いモノラル録音だがこの曲のベストに上げる人も多い。

シューベルト 交響曲第8番 ロ短調 「未完成」
カルロス・クライバー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1978年録音 独グラモフォンレーベル
従来の演奏より早めのテンポによる爽快な演奏。クライバーの指揮による演奏は録音こそ少ないがいずれも人気が高い。

注)
私はレコードしか持っていないため番号は不明だが、いずれもCD化されているはずである。
尚、残念ながら両曲のカップリングによる推薦盤はなかった。
 
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