「カノン」と「アダージョ」
〜バロック音楽の代表的美人姉妹〜
最終更新 2003年6月10日
 
クラシック音楽界の最強タッグが前回の「運命」と「未完成」とすれば、もっとも美しい姉妹は「カノン」と「アダージョ」ってことにしたい。
カノンとは一般に「パッヘルベルのカノン」と呼ばれる曲。
アダージョはアルビノーニの作曲した曲にジャゾットが編曲を加えて完成させた曲である。
この両曲は共にバロック音楽の代名詞的存在で、バロックと言えば必ず真っ先に紹介されるいわゆる入門音楽的な名曲なのである。
「カノン」はバッハ以前の大作曲家パッヘルベルが作曲した「オルガンのためのカノンとジーグ」の前半部分を編曲した曲である。一般には先に述べた「パッヘルベルのカノン」という通称で呼ばれている。
それは通奏低音と呼ばれる繰り返し奏される伴奏(これがカノンに相当する)に乗って美しい旋律が、舞うように紡がれていく音楽である。まことに繊細且つ女性的な音楽とも言えるだろう。したがってクラシックの楽団ばかりでなく、いわゆるイージー・リスニングやムード音楽などの楽団からも必須の曲として人気が高い。
クラシックに限ってもかなり自由に編曲されて演奏されるため、指揮者や楽団によっては印象が異なって聞こえることもある。好みは聴く人によって分かれそうだが、元々堅苦しく聴くような音楽でもない。私としては曲質からして、また入門音楽とするなら、美しくロマンチックに演奏されればそれでいいと思う。
曲はまずフランス映画の主題歌として有名になり人気を博した。日本ではそう言えば戸川純(歌手兼女優)が傑作アルバム「玉姫様」の中で詩をつけて歌っている。もちろん、他にもたくさんの例があろうことは容易に想像がつく。テレビではよくドラマの喫茶店などのシーンや、落ち着いた情感を現すときにBGMとして流れてたりしている。
「アダージョ」も映画音楽に使われてからすこぶる人気の出た曲。こちらも同じくイージー・リスニングやテレビドラマでの定番でもある。カノンに比べてゆっくりした曲調はより哀調を帯び、女性的と言うより一種人生の悲哀を強く感じさせるところがある。これもまたいかにも演歌好きの日本人好みな曲調で、まさに日本でこそ曲としての使命をまっとうしている感さえある。エレジーなどという表現が似合いそうな趣なのだ。
尚、曲を指して前置き無しに「カノン」と言うと、それはパッヘルベルを指すものと相場は決まっている。が、アダージョの場合はちょいと異なり、そう言っただけでは曲を特定出来ない。同じ「アダージョ」という通称の曲がたくさんあるからだ。やはり映画に使われてから有名になったマーラーの交響曲(一部)や、「カラヤン(指揮者)のアダージョ」として人気を博した曲集などがそれだ。曲を呼称するときは「アルビノーニのアダージョ」、と呼ばなければならない。
ちなみにカノンの意味は日本で言えば模写または輪唱のことで、同じメロディが間をおいて繰り返されていく曲のこと。「静かな湖畔の森の影から・・・静かな湖畔の・・・」、というあれである。けっして大砲のことではない。
またアダージョは音楽用語でゆっくりとしたテンポを現す言葉で、アダージョ(緩)−アンダンテ(普通)−アレグロ(急)の順に早くなる。一般にはゆっくりした音楽を総称してアダージョと呼ぶことが多いようである。
 
推薦盤

クルト・レーデル指揮ミュンヘン・プロ・アルテ管弦楽団 1964年録音 フィリップスレーベル
CD番号:PHCP−3687
とにかく録音の多い両曲。名盤と呼ばれるものも10指じゃ足りない。個人的にはしかし推薦盤と言えばこれに尽きる。
レーデルは一般的にはちょっとマイナーだが、フルート奏者でもありロマンチックな演奏に絞ったらこの録音の右に出るものはない。特にカノンは白眉。バッハやテレマンの小曲など他の収録曲も極めて美しく優雅である。
 
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