ヴェルディ 「レクイエム」  No.09 980901
〜宗教音楽とオペラチックなスペクタクルの融合音楽〜
最終更新 2007年12月9日
 
宗教音楽の紹介は2回目となる。
以前、ペルゴレージの「スターバト・マーテル」を紹介したが、そちらに比べて今回のヴェルディ「レクイエム(死者のためのミサ曲)」は一般にもかなり有名である。この分野ではモーツァルト作と並び双璧と言ってよく、現在テレビCMやバラエティなどでもよく耳にする。
以前の説明とダブルこととなるが、レクイエムもまた作曲者名をいっしょに言わないと曲が特定できない。その中では前記二人にフランスの作曲家フォーレを入れて「3大レクイエム」として有名であり、レコード(CD)の中には名盤と呼ばれるものも多い。歌い出しの言葉が曲名となっているのもスターバト・マーテルと同じで、ラテン語による「Requiem aeternam dona eis・・・」で始まり、その意味は「永遠の安息を与え給え・・・」となる。
ヴェルディのレクイエムが他と相違して特筆されるところは、その大規模な音楽性とオペラのアリアを思わせる流麗な歌にある。オペラチックな宗教音楽と言われるのもそんなとこからで、演奏会で聴くその音楽はまさに一大スペクタクルである。
クラシックの世界でイタリアと言えばオペラ。そしてイタリアが誇るオペラ作曲家といえばヴェルディとプッチーニということになる。ドイツ系のモーツァルトとワグナーを合わせて、この分野では4大作曲家として有名である。中でもヴェルディはその代表曲が誇る質・量共に一般的認知度も合わせオペラ界の最高峰と言っていい。
「リゴレット」「椿姫」「トロバトーレ」「仮面舞踏会」「ドン・カルロ」「アイーダ」「オテロ」等々、みんなヴェルディの作である。
そんなオペラ界の大御所がレクイエムなんか書いちゃったもんだから、そりゃースペクタクルにもドラマチックにもなるでしょう。まあ、とは言え宗教音楽には違いなく、全曲の7〜8割は比較的静かなものではあるのだが。
尚、曲の由来は同じくイタリアのオペラ作曲家ロッシーニの死を追悼して、「みんなで協力して書こうよ」ってヴェルディが他の作曲家に呼びかけたものだが、色々あってけっきょく全部自分で書いちゃったという作品。結果的には他の作曲家との実力差や音楽性の違いから考えて、一番いい方向でまとまったと言っていいだろう。
は合唱により極めて静かにつぶやくような「Requiem aeternam」で始まった後、お決まりの「キリエ(Kyrie)」につながっていく。キリエはミサ曲には必ず入っている詩で、「主よ、あわれみ給え」という本題前の祈りを捧げる部分と思っていい。4人の独唱者によって歌われる本編はまことに流麗かつ力強い。
続く「怒りの日(Dies irae)」と呼ばれる部分はレクイエムに特徴的な詩で(フォーレの曲のように「怒りの日」が含まれないものもある)、「最後の審判」と呼ばれる悲劇を綴った部分だけに劇的な音楽となるのが普通である。このレクイエムでも全曲の半分近くをこの部分が占めていて、冒頭から大音響で特徴的な和音が響きわたり、合唱が力強く怒りの日を歌い始める。スペクタクルというのはこの場面のことで、中でもバスドラの最強音は何とも言えぬ迫力で心地いい。余談だが私がコンサートで聴いた時は、勢い余った奏者がバスドラを打ち破るなんていうハプニングがあった。前述したCMやバラエティーで使われてるのもこの部分の音楽である。最近(07年12月現在)なら、PS3などのCMでこの冒頭部分が流れている。
更に「トゥーバ・ミルム(Tuba mirum)」では左右の舞台裏に配置されたトランペットの立体的な掛け合いが、感情的盛り上がりに著しい効果を生むことだろう。まさに圧巻というのはこのことかと納得させるものがある。
長く続く怒りの日の最後は全曲でもっとも美しく感動的な「ラクリモーザ(涙の日なるかな Lacrymosa)」である。元々オペラ「ドン・カルロ」のアリアから流用されたという音楽らしいが、作曲者が涙しながら書いたと言われる大変情感豊かな曲となっている。まさにこれぞクライマックスという感である。
とは言えここまでは前半で、この後曲はさらに「ドミネ・イェズ」「サンクトゥス」「アニュス・デイ」「ルックス・エテルナ」と続き、最後に「リベラ・メ」で全曲を総括して閉じる。
全曲で1時間半は悠にかかる長い曲で、さすがに連続して聴くには後半ちょっとバテてしまいそうだが、一度は聴いてみて損はない大曲なのである。特に機会があればコンサートでの視聴をお薦めしたい。宗教音楽と難く考えず劇音楽と思って聴けばいい。
 

推薦盤

アバド指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団&同合唱団 1979〜80年録音 独グラモフォン
独唱にリッチャレッリ、ヴァーレット、ドミンゴ、ギャウロフと、当時の考え得る最高のキャストを揃え、アバドが鍛え上げたミラノ・スカラ座管弦楽団となれば演奏にはまったく申し分ない。
多少年代は古いが長くこの曲の名盤と呼ばれた、カラヤン指揮の録音(最初に聴いたのはこっちが先だった)もある。
尚、双方とも録音の新しい新盤もあったと思うが残念ながら私は聴いてない。紹介した盤はレコードしか所有してないので番号は省略するが、廉価盤としてCD化されているはずである。

 
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