動作原理/ホーン |
関連項: 動作原理/サウンドボックス 動作原理/機械 |
蓄音機の音質全体に最も大きく影響するのはサウンドボックスでしょう。対して音の傾向(硬軟と言うか寒暖と言うか?)と量にもっとも影響するのはホーンでしょう。 今回はそのホーンについてなのですが、これが実に奥の深いものなのです。って言うか、ずっとそう言われています。フワッと包み込むような低音や刺激的な高音に心奪われたマニアは数知れず。蓄音機に限らずオーディオマニアの間では発生当初から現在まで、延々と続く課題の一つがホーン再生でもあります。プロ・アマ問わず無数の研究や論文、企業であれば関連特許など調べ上げたらきりがない世界です。 オーディオでもっとも贅沢な夢と言えるオールホーンシステム製作のため、スピーカどころか家屋全体を作り直したなんて人が世の中には数多くいます。3階ぶち抜きとか地下に作られた全長10m以上にもなる低音用ホーンなんて、金に糸目をつけない求道者的な人物も少なくありません。それほどにホーンはマニアにとって魅力を放つものなのです。 ってことで筆者も・・・・ なんて言いたいところではありますが、残念ながらそこまでの情熱やお金もありません。ここでの話しはあくまで筆者の考察であるとご理解下さい。同時に蓄音機前提としたものとご承知いただき、現代オーディオの話しをしている訳でもありません。下図や本文は物理的あるいは数学的正確性よりも、感覚的にこんな感じ!と筆者なりに分かりやすく書いておりますので誤解なきように・・・・^^; っと、予防線を張ったところで、詳しくはその手の書物もマニアサイトも無数にありますのでそれらをご参照下さい。 |
上図左はフレームに支えられたダイヤフラムが振動している状態です。サウンドボックスが単体で鳴っている状態に近似しています。 図でも分かるようにこのような振動からは、位相の逆転したまったく同じ音が両側から出ています。この時、ある瞬間から a 時間経過した右側の音 +2 と、同じく a’ 時間経過した左側の音 −2 は、聴取者からするとそれぞれが打ち消し合い 0 となってしまいほとんど聞こえません。b 及び b’ 時間やその途中あるいは以降も含めすべてが打ち消しあってしまいます。更に空気のように軽く密度の小さい(気体ですからね)媒質はダイヤフラムが頑張って振動しても、フワフワの真綿を押してるようなものでなかなかその振動を周囲に伝えてくれません。それでも実際のサウンドボックスではダイヤフラム径に比べアーム側が18mm前後の小さな穴となっており、それが良い空気だまりというかニゲ防止の抵抗となりそれなりに鳴ってはくれます。また反対側はカバーが付いたり剥き出しだったり様々なため、現物世界ではこれほど単純ではありません。 さて、この逆位相の影響は波長の関係で低域ほど大きく、事実上ボンボン響くような低音はほとんど、って言うかまったく聞こえないでしょう。そこでこんな実験をしてみます。 まず、アームから外し針を付けたサウンドボックス単体を親指と人差し指で摘むように持ち支えながら、回転しているレコード上に静かに置きます。それなりに鳴るとはいえかなりシャンシャンした高域勝ちな音を聴くことができるでしょう。次にその状態から本来アームが差し込まれる小穴をもう一方の手の指先で軽く塞いでみます。あ〜ら不思議!?今度はガラッと変わった音を聴くことができます。それが音楽レコードなら立派に音楽として鳴ってくれるのです。あまり勧められた実験ではありませんが、使わないサウンドボックスやダメにしてもいいSP盤がありましたら試してみて下さい。びっくりしますよ!サウンドボックス単体でもこんなに鳴るんだってね! これならアーム側の穴を塞いでサウンドボックスを支えるような竿とか付ければ・・・・って、それじゃホーンの話にならないじゃん! とにかく、蓄音機を前にしてのちょい聴き程度ならいいかな?って思う程度には十分鳴ってくれます。位相の問題がいかに大きなものか実感できるでしょう。 |
上図右は右側から出ている音だけに着目し、左側の音が回り込んで聞こえないよう大きなバッフル(板)で仕切った状態です。 極論すると2m四方程度のバッフルによる仕切を付けることで、事実上音の回り込みは無視できるでしょう。立派に低音も響いてくれるだろうと期待できます。しかしこれではもちろん実用とするのは不可能です。図はあくまでサウンドボックスを表している訳ですから、そんな大きなスペースはありません。 ちなみに、点線のように囲って左側の音を閉じこめちゃったのが、いわゆる密閉型スピーカですね。サウンドボックスのダイヤフラムはスピーカのコーンと意味合い的に同じものです。これなら外に向いた面からしか音の放射がありませんので、先の実験でサウンドボックスのアーム側の小穴を指先で塞いだ状態に近くなります。 |
さて、左側の音はこの際無視して、更に右側だけに絞って考えてみましょう。 先のバッフルは平板でしたので平面バッフルと言います。平面バッフルは指向性が弱く、どこで聴いてもそれなりに聞こえる特徴があります。もちろん、正面付近がもっとも音量があるのも確かでしょうが、音そのものは片側全面に180度の広がりを持って出ているのです。 そこで、それじゃもったいないなと考えた誰かが?、今度はその平面をだんだん聴取者側に向けて狭めていきます。するとそれまで180度開いて飛んでいた音の波が絞られた内側へ飛んでいくようになり、ここでいわゆるメガホンの誕生となりました。図は便宜上二次元で描いていますが、三次元的に狭めていった結果が円錐型をしたメガホン形状となった訳ですね。その音は音量が増し、メガホンが向いた側に良く聞こえる(=指向性の強い)音となります。 平面上で四方に無駄に散っていた音をある方向に絞り込む。もちろんこれがすべてではありませんが、最も重要なホーンの増幅原理と思って問題ないでしょう。 仮に上図右のように180度を90度に狭めたメガホンの開口部付近で聴くとすれば、数デシベルほどの増幅効果を期待出来ます。 実際は諸々のロスや反射などありますのでそう単純ではありませんが。 エジソンが発明した当初の初期蓄音機はこのメガホン型ホーンでした。 |
しかし、単純な円錐型メガホンでは問題もありました。 ホイッスルのようなある特定の1音(単音)なら良くても、楽音のようにあらゆる周波数や強さの音が入り交じった音楽では出てくる音の特性に大きな暴れが生じてしまうのです。つまり特定の周波数の音が強くなったり逆に弱くなったりしてしまいます。蓄音機発明当初は周波数帯域の狭い人の声(話し声や演説)の記録が主でした。その場所にいた人にしか聞けなかった声が記録され、それが時間をおいてあるいは別の場所で聞こえること自身が驚異であり、メガホンでも特に問題となることはありませんでした。本質的には当時の加工技術的に高度な形状成形は困難でもあり、略扇形の平板から作れるメガホン形状で十分という判断もあったのかもしれません。しかし、やがて音楽の記録再生が主流となってくると、どうも上手く鳴ってくれないのです。 詳しくは専門家やオーディオマニアの解説サイトに譲りますが、音響学的には「音響インピーダンスの(空気)マッチングが取れてない」と言うことになるそうです。なんじゃそれは?って思いますよね。 音や電波など波動と言われる物理量の入出力や接続には、マッチング(整合)という切っても切れない要素があります。「営業と製造の整合が取れてない!」、なんて上司に怒られるあの整合と、まあ意味合い的には似たようなもんでしょう。アンテナ周りの接続で、同軸75Ω、メガネフィーダー200Ω、リボンフィーダー300Ωなど、整合をとらないとあれこれ問題があるのを御存知の方もいらっしゃるでしょう。 つまり、メガホンでは単純な一定割合で広がってきた音が開口部に届いた時、突然その縛りが取れて大気中に放たれびっくりしちゃうんですね。その際開口部の境目では反射や回折現象が発生し、能率が落ちたり共振したり周囲に悪影響を及ぼす(電波で言う不要輻射など)ことがあるのです。あるベクトルを持ってメガホン内を走ってきた音が、突然制限のない空間に放たれあっちこっち向きを変え広がってしまうと言ったらいいでしょうか? これはメガホンの形状的単純さ故の問題です。そこで実際のメガホン型ホーンでは後に、先端開口部にRを付けて丸めています。これはそれらを防ぎたい苦肉の策でもありました。 ホーンを通過してきた音が何事もなかったように乱れることなく大気中に広がってゆく時、マッチングが取れたと言われもっとも効率が良くなります。何事も放出する(受け渡す)時が大事なんですね。 |
そこで考え出された代表が上図のような広がりを持ったエクスポネンシャル(指数関数)ホーンです。これほどのっぽじゃありませんが、富士山が横に寝たような形ですね。トランペットなど金管楽器のいわゆるラッパ形状でもあります。 このようなホーンには一般論として次のような特徴があります。 音の増幅効果が高く10デシベル以上の増幅が可能。 低域のカットオフ周波数(再生限界)は主に開口径で決まる。(大径のホーンほど低い音を出しやすい) 開口径が同一ならばL長の長いホーンほど低域が豊かに響き、短いホーンはメリハリの利いた再生が得意。 カットオフ周波数付近の低域から高域まで暴れの少ない周波数特性を持つ。 指向性はあるがメガホン型に比べ自然。 カットオフ周波数については音の波長と関係し、蓄音機で多い口径40〜50cmであれば250〜300Hz前後となっているのが普通かと思われます。 また長いホーンが低域再生に長けるのは、開口径が同じならば長い方が多くの空気を効率よく振動させられるためです。換言すれば長い方がホーン内の空気容積が大きいと言うことですね。低域再生では何より量感が必要で、いかに多くの空気を振動させられるかが重要です。カットオフ周波数の場合と同様低音用スピーカほど、低音を受け持つ金管楽器ほど、口径が大きくなるのと同じような理屈です。 一見不思議に思えますが自然界の様々な現象とその変化の感じ方は人にとって対数的であると共に、その親戚指数関数がたびたび顔を覗かせます。面積が2乗に体積が3乗に比例すると思えば当たり前にも思えますが、実際、人の感覚もその強さの感じ方と言う面では対数的に変化するのです。物理的な音量の大小で言えばおよそ1000万倍の感度があると言われる人ですが、それは対数表現では140デシベルと言うことになります。昔よく使った音の単位「ホン」で言えば140デシベル=140ホンと言うことです。 ホーンの場合もその指数関数が顔を出し、もっとも効率よく様々な音を響かせるのに(先の言い方をすれば音響インピーダンスのマッチングが)エクスポネンシャル形状が最良だったと言うことです。 ではなぜエクスポネンシャルが最良だったのか? いや、、、、だからさー・・・・タイスウがさー・・・・ケイケンテキにさー・・・・・・・・^^; なんて、筆者に学術的で正確な説明は出来ません! キッパリ!(出来たら本でも書いてる?)・・・・^^; 難しいところはみんな逃げちゃう筆者でした (^^)/*パコッ! |
注記 ホーンについて、オーディオマニア界でも花形であるだけに俗に言う定説はいくつかありますが、メーカーまたは識者間でもその見解が必ずしも統一または一致している訳ではありません。その世界では物理量云々よりも人の(個人的)感覚が優先され、しかも年齢による高域側の感覚変化はほとんど無視されて語られたりしています。50〜60代以上の方が「超高域の伸びが抜群で・・・・」なんて曰ってるのを聞くと、正直筆者は笑顔?になっちゃいます。加えて個人の好みがその感じ方を大きく左右させる世界でもあり、人の数だけ感受の感覚も異なると言って過言ではありません。したがって筆者は物理量としての定説や定義はあっても、感覚的表現を伴う説明に(もちろん筆者の言葉も含め)客観性は無いものと考えています。 ・・・・っであるにもかかわらず、その種のマニアさんはわずかな違いでも感じようものなら(この「違いを感じた」というのがまた恐ろしく個人的なものであるのに関わらず)「まったく音が変わった」「別次元の音になった」などと、形容詞豊かに平気で断言する人達が数多くいます。我こそが正しく自分の感覚がすべてとばかり、勝手な主張や押しつけをする過剰反応を示す人物も少なくありません。筆者も別項で「自分の意見と違うからお前のページは削除しろ」などと、理不尽な言いがかり被害?経験がありまして・・・・^^;^^; 本項では第三者にも通じるよう一般的且つ平易な説明をしたつもりですが、同時に筆者の感覚が語られてる面があることも否定できません。必ずしも古典的あるいは専門的見解に準拠しているとは限らず、蓄音機でのホーンについてあくまで筆者個人の考察ですのでご了承下さい。 また、もっともらしく書いてはおりますが所詮素人でありその道の研究者ではありません。したがって言葉足らずやまったくの勘違いもあるかも知れません。明らかな間違いなどありましたらご指摘いただけますとうれしく思います。 |
最終更新 2016年 1月14日 追記更新 2015年 5月20日 追記更新 2011年 8月 7日 新規追加 2009年 7月 2日 |