動作原理/サウンドボックス
関連項:  取り扱いと注意  動作原理/機械  動作原理/ホーン
 
動作原理
サウンドボックス動作図
蓄音機でかける一般のSP盤(SPレコード)は、音の波(音波=粗密波=空気振動)が横方向の振動として盤上を走る溝に記録されています。蓄音機ではサウンドボックスの針先でその溝をトレースし、カンチレバーを介して接続されたダイヤフラムを揺らして音波として再現しています。

蓄音機初期には振動を縦方向(盤の深さ方向)に記録したレコードもありました。再生には専用の縦振動用サウンドボックスが必要で、一般のサウンドボックスは使えません。但し動作原理は同じでちょっと乱暴に言うと、サウンドボックスの針の付き方がカンチレバーの延長上に付いてるか(左図)、途中で横に90度曲がって付いてるかが違うだけです。
後年、蓄音機の普及に伴い縦振動は淘汰され横振動レコードだけ(*1)になりました。

針先の力点に加えられた横振動は支点を介して、てこの原理で作用点に伝えられダイヤフラムを振動させます。その間は機械的な力の伝達のみで電気的仕掛けはありません。
てこの原理を逆利用したサウンドボックスの増幅率は下図のように意外に小さく、支点からの寸法比にしてわずかに1.5倍前後しかありません。それでもサウンドボックス単体でけっこうな音量がありますので侮れませんが、更にその後ろに接続されるホーンにより大音量となって再現されます。
 
サウンドボックス模式図
 
このように音の出る原理はいたってシンプルなのですが、記録された音をオーディオ的に忠実に再現しようと考えるとなかなか奥深いところがあります。シンプル故に我々アマチュアも手を出せそうな課題が山積となっており、そここそいじくりマニアが驚喜しちゃいそうな部分でしょう。

ちょっと考えただけでも、
  1.針の長さと太さ及び剛性(材質)
  2.針圧
  3.支点の支持方法とダンプ方法
  4.カンチレバーの剛性
  5.筐体の剛性と構造
  6.振動部やダイヤフラムのダンプ方法
  7.ダイヤフラムの素材と形状
  8.ダイヤフラム・エッジの形状
  9.アームの感度とサウンドボックスの質量
などなど。

1〜6はLP時代以降のレコードカートリッジとほぼ同じ課題であり、5〜8はスピーカのドライバでこれまた重要な要素となっています。サウンドボックスはカートリッジとドライバの両方を受け持ち、まさに蓄音機の命なんです。

また、一般のサウンドボックスでは上図でも分かる通り、ダイヤフラムと接続される作用点が力点(針先)と支点の軸上(直線上)にありません。そのため作用点の運動は単純な前後運動ではなく、上図「振動方向」の黄矢印のようにやや前傾した円運動となります。これはダイヤフラム本来の振動方向だけでなく面の広がり方向に歪んだり抵抗を生む結果となり、決して好ましいものではありません。ずいぶんと微視的な話しでそんなわずかな変位が・・・・などと言ってはいけません。改善策があるならそれに越したことはないのです。実は良いサウンドボックスを見分けるのに、この辺も重要な要素となってきます。

そこで名器と言われるサウンドボックスをよくよく見ると、上述の箇条書きした部分や作用点ズレの問題など、実によく考えられています。そんな細かな所まで名器と言われるにはちゃんと理由があるんですね。
下は「HMV No.5A」サウンドボックスの例です。針の取り付け軸上に作用点があり、支点を挟んで一直線に並んでいることが分かります。
 
HMV No.5A    作用点ズレ対策図
 
ところで、上述9番の課題には実は悩ましい問題もあります。

LP時代のアームは一般に初動感度(動き出しやすさ)の小さいもの、つまりちょっと触れただけで敏感に動くものほど良しとされました。しかし蓄音機のアームとサウンドボックスの関係はそれほど単純ではありません。

サウンドボックスはドライバでもある訳ですから、針先の拾った振動をドライバとして忠実に受けるには本来固定されていなくてはなりません。ドライバとして動くのはあくまでダイヤフラムだけで、サウンドボックス本体も揺れてしまうようでは困るのです。それはロスに他なりませんし、レコード上の波形を歪ませることとイコールです。そこである程度サウンドボックス自身の質量(重さ大=慣性大=動きにくい)が必要となりますが、レコードや針の摩耗、支点のダンプ、ダイヤフラムやカンチレバーの剛性、それらの複合的な関係を考えると重すぎても軽すぎてもいけません。アームの感度が良すぎてもふらつきの原因となるかもしれないのです。

実際の場面では左右の早い動きなど相殺してそれほど考えなくてもと思えます。むしろレコード自身の偏芯による揺れや反りによる上下動、更に当時の加工技術や機械的精度、経年変化による摩耗からの揺れや共振など上げたらキリがないほど複雑な関係となるでしょう。そのような場面でたとえばピーク入力があった時など、どこかに適正値というものを見いださなければならないのです。

理想的には、今トレースしているレコードの音溝上でサウンドボックス本体はピタッと静止し、支点を中心に力点(針先)と作用点(ダイヤフラム)だけが振動していることが望まれます。ちょうど1番上のアニメーション画像がその動きですね。
現代技術であればレーザーで音溝の平均位置を追いながらリニアトラッキングとサーボ技術を駆使し、音はあくまでサウンドボックスから拾った機械増幅のみとし無駄に揺れることなく上述を実現させる・・・・なんてところでしょうか? 針圧や角度等の設定も自由がききそうだし、1台200万円程度でできればほしいと思う人もいそうな気がする。数100万円のフロア形買う人だってゴロゴロ?いるんだから・・・・たぶん?!
 

 
時々・・・・って言うかかなり頻繁にサウンドボックスの針を垂直に立てて使用している、あるいはそのような写真や動画を見かけることがあります。

最近でも年末番組でお馴染みの○○大賞をなにげに見ていて蓄音機にスポットの当たる場面があり、なんだ!なんだ?と注目したものの・・・・垂直に立ったサウンドボックスが派手な針音をたてつつ・・・・なんて場面を目撃することに・・・・^^;^^; まあ、音そのものはリアルタイムではなく事前収録の効果音だろうけどね。
蓄音機本体は近年のインド産と言われるHMVを模したリプロ物を一部改造しており、逆にこんなの全国放送で流して大丈夫か?と心配になったほど。視聴率がどれほどか知らないけど、ひょっとして1000万人かそれ以上かもしれない人達が見て、もし蓄音機に誤った印象を持たれたなら非常に残念なこと。そもそもサウンドボックスの表裏だって逆向きだったし(動作上向きそのものと音はあまり関係ないが)、仮にもその名を冠した最大級のイベント番組でこれはいかがなものか? いつぞやの某バンドPVのように、ターンテーブル左側に垂直のサウンドボックスがあるなんてセッティングよりはまだマシか? あれも同じ蓄音機だったような気がするが?
いずれにしろセッティングした人知らないんだなーと思いつつ、それは決して正しいセット方法ではありません。

SP盤表面はセラック(*2)またはその混合物からなるそれなりに固いものですが、蓄音機の重い針圧ではたとえ1回のトレースでもそれではレコードを酷く傷めてしまいます。まるでカリカリ引っ掻きながらトレースしていくようなものです。SP盤は固い反面脆く、割れやすい上に傷つきやすいという靱性に劣る欠点があります。弾力があり割れにくい塩ビ製レコードと違い、SP盤では落としたりちょっと曲げただけで簡単に欠けやヒビ割れが起きてしまいます。
後の電蓄カートリッジのように針圧の比較的軽いものでは垂直に近くなっているものもありますが、蓄音機では通常角度にして60〜70度前後の傾きとするのが普通です。

オリジナルの組み合わせであればサウンドボックスをアームにしっかり奥まで差し込み、右にひねって回すとそれ以上回らず止まる位置があります。その位置が正しい角度となる位置です。上述のような垂直に立ったセッティングの多くは奥まで差し込んでいないか(したがってひねって回すことができない)、奥まで差し込んでいても何らかの理由で固くて回せないか、ひょっとして回すこと自身を知らなかったのかもしれませんね。

オリジナル以外の組み合わせでは正しく差し込んで止まる位置まで回しても、本来の角度と異なり異様に立ったり寝てしまうことがあります。それはサウンドボックスの口金部(差し込み部)内側に出ているピンの位置、及びアーム側の逆L字形のガイド溝形状とも統一規格が無く、メーカーによってあるいは同一メーカーでも機種によって様々な仕様となっているためです。よって後述のようにその意味からも、サウンドボックスとアームはできる限りオリジナルの組み合わせとすることを推奨いたします。

尚、特に戦中から戦後間もなくの比較的廉価な蓄音機のサウンドボックスでは、先のピンやアーム側のガイド溝も無く口金部に付いた横ネジを締め込んで固定するタイプもあります。それらの機種では演奏時におよそ60〜70度の角度となる位置で締め込み固定してください。

蓄音機は器用な方がそれなりの工作機械や3Dプリンタなど使いこなせば、現代技術ならそれほど苦労なく作れるはずです(費用や耐久性、音楽性の善し悪しは別です)。しかしSP盤はもう二度と作られることはないでしょうし今残っているものがすべてです。そんな大事なレコードを立て過ぎたサウンドボックスによりわずか一度のトレースで取り返しの付かない傷を生じさせたり、寝かせすぎて音溝の正確なトレースができなかったり(これも傷める原因の一つです)したら悲劇ですよね。
サウンドボックス取付角
上図は目視の際目安になればと60度で製図しています
 

 
蓄音機ではサウンドボックスの自重+アームの重さの一部または全部が、片持ちアームとしてそのまま針圧となってレコードに掛かります。後のトーンアームに見られるバランスウェイトも無ければ調整も基本的にはできません。それは総重量にして通常150g前後と大変重く、LP時代の針圧と比べると数10倍〜100倍程度とまさに桁違いとなっています。したがって当たり前ですが、蓄音機で塩ビ製のLPレコード/EPレコードはかけられません。そもそも録音方式も違いますし一発でレコードをダメにしちゃいますよ。
 
アームタイプ2 アームタイプ1
 
上写真で、左側のアームは水平回転がその回転軸で支えられ途中から折れ曲がるタイプです。中程にあるリング状に見える継ぎ目部分から先の重さが片持ちアームとなり、サウンドボックスの針圧にプラスされます。
右写真の蓄音機ではアームの回転軸に支えが無く、アーム全体の重さが針圧に関わってしまいます。初期の蓄音機はラッパ型を含め大概このタイプです。

構造的に後者では水平回転の支点となる縦軸にガタが出やすく、アームの軸回りにも回転方向(横軸)のガタが避けられません。古い機械で筐体やターンテーブルの振動等伴う場合、軸部分でカタカタと当たり音のすることもあります。
それらの改良された結果が前者だと思っていいでしょう。
 

 
インサイドフォースキャンセラー
 
インサイドフォースキャンセラー

ところで、このコイルバネはなんだと思いますか? って、もう言っちゃってるけど ^^;

これは別項のANKER AMATI 機に装備されていたものですが、実はバネのねじりを利用したインサイドフォースキャンセラーなんです。蓄音機のアームでこのような機構を見たのは筆者はこれが初めてでした。考えてみれば回転が速く針圧の大きな蓄音機では十分その意図する目的に納得出来ます。

オーディオマニアにはお馴染みと思いますが、アナログレコード再生ではトーンアーム(正確には針先)にかかる力の合力として再生中内側に向かう力(インサイドフォース)がかかっています。これを打ち消すためアナログプレーヤに付く高級アームでは、外側(回転軸に対して反時計回り)に軽く重錘やバネで力をかけています。インサイドフォースを打ち消すように作用することからこれをインサイドフォースキャンセラーと言うんですね。それをこの機種ではやっていました。ちょっとびっくり!
正直蓄音機レベルで・・・・なんて当初は思いましたが、前述のようにその必要性は十分納得させるものがあります。この機種ではバネの強さを調整した後使用済みの針先を見ると、片減りがほとんど無くきれいなV字に摩耗していることを確認しています。当然レコードにも優しいと言えるでしょう。ドイツの蓄音機ですが、これもマイスターのこだわりでしょうか?

尚、アームの取り付け位置や形状、サウンドボックスの角度(オフセット角)など、すべての蓄音機で必ずしも同様のことが言えるとは限りません。それでも使用後の針先をルーペで見て、筆者の経験上多くの蓄音機では針の内側(レコード内周側)が大きく磨り減る傾向にあります。それがすべてインサイドフォースの影響とも思えませんが、そのような削れ方をする蓄音機では一応その影響を疑ってみてもいいかもしれません。
逆に針の外側が大きく削れる蓄音機では、アームの動き(回転)に抵抗があるとか、どこかのバランスが狂ってるとか、他の原因が隠れているのかもしれませんね。

いずれにしろ、ステレオ再生ではありませんから余り神経質になる必要はありませんが、レコードから見て内周面側ばかり針の当たりが強いとしたら寿命的に好ましくないのは確かでしょう。
参照 : アナログレコード再生のインサイドフォース 
 

 
っと言うことで、サウンドボックスとそれを使用する蓄音機のアームとの関係はかなり密なものと考えられます。良いサウンドボックスにはそのメーカーがそのために設計したアームを使う蓄音機があるはずです。したがって、ある蓄音機を手に入れたなら、なるべくオリジナルのサウンドボックスを使用すべき、と筆者は考えます。

サウンドボックスとアームとの親密な関係を考えると、後のLPカートリッジほどには取っ替え引っ替え、って訳にはいかないようです。いわゆる相性の問題は現代オーディオとは比較にならないほど蓄音機では大きいのかもしれません。そもそも蓄音機において、サウンドボックスやアーム周りの調整手段は針交換くらいしかありませんし、加えて何より統一規格なんて無かった時代の装置ですからね。

当時の機械設計で上述内容など、シビアな部分でどこまで考えていたかは分かりません。しかし、名の知れたメーカーであれば、当然各社レコードを含む自社製品の組み合わせを中心に音を聴き調整し、また設計したであろうことは間違いないでしょう。前述のように統一規格なんて無いに等しい訳ですから、その意味でも蓄音機に関しては「基本=原典主義」がよろしいかと思います。更にはビクター蓄音機ならビクター盤レコード、コロンビア蓄音機ならコロンビア盤レコードというように、同一メーカーの蓄音機とレコードの組み合わせが再生については理想なのかもしれませんね。

まあ、あくまでサウンドボックスとそれを支えるアームの原理的には、っと言うことですが・・・・
 

 
*1

なぜ横振動レコードが残り縦振動は淘汰されたかですが、次のようなことが考えられます。
(筆者の考察なので正解かどうかは分かりません。念のため)

縦振動では盤面に対して音溝が深くなったり浅くなったりしています。そんな音溝を78回転という高速で針がトレースしていく訳ですから(最大約1.2m/sec)、たとえば周波数の高い大音量(=大振幅)の所では針先が跳ね飛ばされるように浮いてしまう、または針飛びを起こす可能性があります。それは振動方向と重力方向が同一という縦振動故の特徴的な問題であり、おまけに運悪くアーム長や針圧、再生周波数との共振など加わると大変なことになるかもしれません。ただでさえ重い針圧に加え重力加速度を超えればポンポン浮いてしまう(そこまで行かなくても針圧変化があることは明らかでしょう)。それでは簡単にレコードを、それも特定部分で集中的に傷つけてしまいます。次のトレース時にはその傷が抵抗ともなり、ますます跳ねを助長し加速度的にレコードを傷めてしまうでしょう。したがって横振動と比較し縦振動では明らかにレコード寿命が短くなると考えられます。もちろんLP時代の高級トーンアームのように、ダイナミックバランスなんて言う高度な機能は蓄音機にはありません。横振動であれば溝の深さは基本的に一定なのでそのような問題はかなりの部分回避できそうです。支点のダンパーによる調整も重力方向と直角の横振動では慣性の影響も少なく、ずっと優しく且つ効果的に効くでしょう。

また、レコードのマザー(原盤)をカッティングしていく時、溝が深いと削り出すのに大きな抵抗が生じ、逆に浅いと極端に弱くなります(断面積とすれば二乗に比例)。これはカッティング中のトルク変動が常時起きてることと同じで、ワウ・フラッターの一因となりそうです。更にカッティング刃も大きな負荷変動に見舞われ、忠実度と言うことでは歪みの元となるのは明らかです。横振動では深さが一定なので針先が左右に揺れても縦振動に比し大きな抵抗とはならないでしょう。対して縦振動ではまさに桁違いの変動になると思われます。それでもカッティングマシンなら強力無比なモーターやバカデカいフライホイールを付けることも可能でしょうが、この負荷変動はレベルの差こそあれ再生時でも基本的に起こりえる現象と言えます。しかし、我々が使う一般の蓄音機ではもちろんそんな強力無比なモーターなどなく、トルク変動ありありのゼンマイ動力なのですから困りますよね。

尚、定説?として、そもそも録音対象が異なっていたということもあるようです。つまり、ダイナミックレンジや周波数帯域を広げやすい横振動は音楽用、上述の理由で広げにくい縦振動は会話など帯域の狭い声の記録用とか。
更に、アームとの接続やサウンドボックス自身の構造を考えた時、横振動の方がよりシンプルに(=安く)できるということもあるかも知れません。

余談ですが、後年のステレオ録音ではこの横振動と縦振動を組み合わせるというコロンブスの卵的発想で、上手くL・Rを溝の左右に分けて録音しています。更に後年、左右信号をマトリックスしたりして様々な4チャンネル方式が乱立しました。いずれも今で言うサラウンドの走りでしょうか?。あまりに雑多な、まさに方式乱立であったため4チャンネルは数年で消えました。その後のVTRもLDもDVDも、昔から方式の違いによるメーカーの主導権争いに話の種は尽きません。
 
*2

セラックはラックカイガラムシという昆虫が分泌する樹脂状物質を精製して、SP盤の他各種に利用されています。非常に安全性が高く食品添加物としても使用され、人類が古くから使用してきた天然素材の一つです。
ヴァイオリンなど木製楽器では昔からセラックニスが使用され、筆者も蓄音機や時計の筐体補修に以前からよく使っています。乾きの早すぎるのが玉に瑕で素早い作業を要しますが、固く光沢ある被膜は極めて雰囲気ある外観に仕上がり手触りも抜群です。
共にちょっと高価で万能とは言えませんが、セラックニスと膠(にかわ)系のタイトボンド(商品名)接着剤は蓄音機や時計レストアの際には是非お試しあれ!
 
最終更新 2017年 1月15日
追記更新 2010年11月20日
追記更新 2009年 8月 8日
新規追加 2008年 3月 8日
 
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