動作原理/機械 |
関連項: 動作原理/サウンドボックス 動作原理/ホーン |
蓄音機機械の動作原理はいたって簡単です。時計のように脱進装置が必要な訳でもなく、ボンやウェストミンスターチャイムを鳴らす必要もありません。ゼンマイで歯車を回すのは時計と同じですが、嵌合する歯車は調速装置であるガバナーを入れても4個しかありません。回転の安定はそのガバナーと呼ばれる機構でブレーキをかけながら重錘を振り回すという、これもいたって原始的方法で78回転を作り出しています。 |
上図による機械動作は以下のようになります。 ゼンマイを巻かれた香箱は解けながら時計回りに回転。 嵌合した2番車が反時計回りに回転。 2番車に嵌合した3番車(この軸がターンテーブル軸となります)がレコードの回転方向である時計回りに回転。 3番車にウォームギャーにより嵌合したガバナーが高速回転。 ガバナーでは板バネに取り付けられた重錘が高速回転による遠心力により、A矢印のように広がりながら回転します。 板バネは一方が固定されており、重錘が遠心力で広がるに連れ他方に付いたブレキーディスクをBのように引き寄せてきます。 引き寄せられてくるディスクにブレキーパッドを接触させ、回転力とブレーキ抵抗のバランスが取れた位置で回転が安定します。 つまり、遠心力で膨らんでいこうとする重錘を、ディスクを介したブレーキで押さえることによりガバナーの回転を制御しています。 C矢印のように調整ネジを前後に動かし、3番車が78回転となるようブレーキパッドの位置を調整しレコードの回転数に合わせます。 |
機械実際例 / 2丁ゼンマイ機械の一例です |
余談ですが、 初期のラッパ型蓄音機やニッポノホンなどではこのブレーキパッドの動きを直接レバー操作し、ブレーキを強くかけることによりストップレバーの役目も兼ねていました。後のターンテーブルまたはその軸(3番車)にブレーキをかけて停止させる方法と比較し、片側(図で言えば上側)にガバナーを強制的に押しつけて止めるため、ブレーキパッド、ブレーキディスク、ウォームギャー、3番車との間で調整不良やガタが大きかった場合ロックを起こしやすい欠点があります。 |
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っと言うことで、オイオイそれだけかよ (^_^)/*パコッ!、って突っ込みを入れたくなるくらい単純です。しかしそれはあれこれ教育を受けた現代人だから思うことで、当時それを機械としてまとめ上げた先人の知恵と苦労には敬服します。蓄音機発祥当初から電気動力によるアイドラドライブやベルトドライブに代わるまで、メーカーそれぞれの特徴や工夫の差はあっても基本構造は変わりません。ガバナーの調速機構は実用機械として、もっとも古くからある調速装置の一つです。単純ですが様々な機械装置でちゃんと実用になってるのも事実で、Simple
is Best の典型のような機構ではないでしょうか? 欠点は抵抗のけっこう大きな機構のため、3番車とガバナー軸の間隔や傾き調整にはけっこうシビアです。この部分の調整と潤滑は滑りが大きく、片摩耗等の原因になりますので細心の注意を払わなければなりません。 |
いわゆるウォーム減速機というものがあります。簡単に言うと、高速回転するウォームに嵌合する相手歯車(ウォームホイールと言います)を減速するというものです。これからも分かるように、普通この装置の力(回転)の伝達はあくまで高速回転のウォームから低速回転の歯車へというのが原則です。回転は落ちるけど、小さな力で大きな力を生み出す機構でもある訳です。 したがって蓄音機でも、高速回転するガバナー側を手で弾くと簡単に(言い換えれば軽い力で)3番車は回ります。これを車で言い換えれば、高速回転のエンジンでローギャー走行をしている状態と言えばいいでしょうか? しかし、蓄音機機械での駆動力はウォーム側(3番車側)にあります。しかも、重錘の付いたガバナーまで振り回す訳ですからけっこう力が必要なのです。先の車の例で言えばエンジンブレーキをかけた状態ですね。タイヤ側を回してエンジンを強制的に高速回転させるにはけっこう力が必要となり、だからこそエンジンブレーキとして機能する訳です。 試しに自然停止したターンテーブルを外して、軸を手で回してみて下さい(回しすぎてゼンマイを必要以上緩めないよう注意!)。けっこう重さを感じるでしょう。つまり、この抵抗性のため別項/取り扱いと注意/5.終了と収納でもお話ししているように、ターンテーブルをフリーで回転させてもゼンマイが緩みきることはありません。 |
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機械のゼンマイに関係して別項から加筆修正して下記に転載します |
ゼンマイを巻こうとしてもスカスカで、何回クランクを回しても抵抗が伝わってこない。あるいは「シャラン・・シャラン」と音が聞こえるだけで全然巻けてこない、という症状がよくあります。これらはゼンマイ自身が破断した場合の他に、端部の外れまたはゼンマイの引っ掛かり代となる爪の破損である可能性が高いと言えるでしょう。ここでは後加工により修復可能な後者の場合についてお話しします。 端部の外れはゼンマイ外周部の香箱固定部の場合と、軸側の外れとして引っ掛かりとなる爪の磨耗や破損などがあります。このうちほとんどは軸付近の問題で、ゼンマイ外周部の外れは稀です。外周部の場合外れよりも破断の方が圧倒的に多いでしょう。たとえばゼンマイを常に最後まで巻き締めて使用した結果、ゼンマイが切れる以前に香箱固定部のリベットを引きちぎってしまった場合などです。 参考 : 別項/取り扱いと注意/2.ゼンマイ巻き このような外周部の問題では、クランク数回転から10数回転に1度くらい「ジャラジャラ〜ン」とやや長い音がします。 対して軸周りの問題である場合は軸の毎回転ごとに(クランク数回転ごとに)「シャラン」と短い音が聞こえます。 上の写真は2丁ゼンマイの片側で軸の爪が破損し外れてしまった例です。 このような場合、香箱を開けてゼンマイに問題なければ軸側の引っ掛かり爪を確認します。長年の使用で爪が磨耗したり潰れたりして引っかかり代が無くなったり、最悪破断したりしていることがよくあります。磨耗した場合は叩き出す必要がありますが、それなりの工具とテクも必要ですので修復はかなり困難でしょう。筆者の場合この例では軸に横穴を開けて釘の頭の部分など埋め込み、それを引っ掛かり爪として利用したりします。元々そのような爪となっている機械も多くありますので、正しい対処法と思っていいでしょう。 開けた香箱はせっかくですからメンテのためこびり付いたグリスを拭き取り、しばらく灯油漬けにしておきます。ホントは専用の溶剤やガソリンの方がいいのですが、高いし毒だし危険だしで筆者はいつも灯油と油性用ブラシを利用しています。香箱からゼンマイを取り出すかどうかはケースバイケースですが、香箱入りのままでもしっかり灯油洗浄すれば多くは問題ありません。わざわざゼンマイを取り出して洗うのは個人的にはこだわりみたいなものかと思っています。 とは言え、慣れれば香箱へのゼンマイの出し入れもそれほど難しいことではありませんので、完璧を期すならもちろん取りだして洗浄した方がいいでしょう。作業には最低限香箱を固定する万力やVブロックの他、ケガ防止の軍手や防護眼鏡を用意して下さい。また、香箱側の固定がリベット留めの場合、先と同じく釘の頭など利用して叩きつぶして再固定します。 右下写真はすっかりきれいになったゼンマイです。これに注油後蓋をして軸を差し込み、ゆっくりその軸を正回転させながら左右に上下にコチョコチョ揺すったり、香箱をコンコン叩いて軽く振動を与えたりします。するとそのうち、きたーーーって感じで嵌合した感触が手に伝わり、ゼンマイの穴に軸の爪の嵌る様子が分かります。香箱の蓋を締める前にどうやったらゼンマイと軸が上手く嵌合するか予行演習しておいてもいいでしょう。 すべてがこう上手くはいかないかもしれませんが、それほど難しい作業ではないと思います。 尚、コロンビア機械のように軸側がキー溝となっていて、歯車を差し込むだけでゼンマイと嵌合できるよう考案された機械もあります。 |
さて、一度嵌れば本来簡単には外れないゼンマイですが、それでも軸が外れちゃう原因は主に二つあります。 一つはゼンマイが巻いてある時に機械をバラしちゃった場合。 動かないのでバラしてみたらゼンマイが思いっきり巻いてあった、なんて時ですね。この時は噛み合わさった歯車が外れたり、ターンテーブル軸からウォーム歯車が外れた瞬間、ジャーっと数秒のうちにゼンマイが一気に緩みその勢いで軸が外れちゃいます。稀に軸側ではなく香箱側の固定部(リベット留めではなく引っ掛けタイプのゼンマイ)が外れることもあります。作業者側から見ても大変危険な状況でもあり、高速で回るギャーで手をケガするようなこともあるかもしれません。 後年の樹脂製ウォームホイールを持つ機種では、そのホイールが異常に磨り減った機械を見かけることがあります。それはこれをやっちゃった証拠ですね。ガバナーの調整中に嵌合を緩ませ過ぎて一瞬に・・・・なんて言う事故です。ガバナー周りの調整の際は必ずゼンマイを緩めておきましょう。軸やガバナーを手で揺すりながら調整し、こんなもんかな?と言うところではじめてゼンマイを軽く巻き状態の確認を行います。 もう一つはゼンマイが緩んでいるにも関わらず、ターンテーブル軸を回しちゃった場合。 音出しとか様子を見ようとしてターンテーブルを順方向に何回転も手で回しちゃった時です。ちょっと回したくらいでは大概問題ありませんが、度を過ぎれば緩みすぎてやがて軸の爪がゼンマイの穴から外れちゃいます。ターンテーブルの正回転は限度を超えれば爪を外す回転となり、その場合抵抗もなく簡単に外れてしまうことがありますのでご注意下さい。 ゼンマイや軸に問題ないにもかかわらず外れてしまった原因のほとんどは、上述のいずれかです。みなさまご注意を! |
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メーカーまたは識者間でも必ずしも名称は統一されていません。 各部品名など第三者にも通じる一般的且つ平易な呼び方とし、必ずしも古典的名称には準拠していません。あくまで筆者個人の呼び方でもありますのでご了承下さい。 |
最終更新 2013年 1月31日 新規追加 2009年 6月14日 |