「メンコン」  No.20 010422
〜音楽界きってのプリマドンナを聴く−1〜
 
ヴァイオリン協奏曲に4大協奏曲と呼ばれるものがあることは以前お話しした。⇒こちら
ここで言う4大とは単に「有名」という接頭語程度の意味合いだが、実際実によく言ったもの。果たして世界共通で4大と言われてるのかどうかまでは知らないが、このジャンル中でもひときわ輝かしい曲であることに異論を挟む人は居まい。
メンコンはその4大に含まれるメンデルスゾーンのヴァイオリン・コンチェルト(協奏曲)のこと。
いつからこんな愛称で呼ばれ始めたかは知らない。どうやら今も昔もお気に入りは縮めて言いたがる、というのが人の性らしい。だいたいこの種の有名曲には文字通り愛称とも言うべき表題がよく付けられるものだが、バロック期を除いてなぜか協奏曲にはその種の呼び名が少ない。この曲もその例に漏れず表題はなく、かと言って○○○の○○○協奏曲ではいかにもヤボったい。何てったってクラシック音楽界きってのプリマドンナである。堅苦しい呼び名なんて禁物ってもの。それこそ不作法ではないか。
メンデルスゾーンはユダヤ系の銀行家の息子として生まれ、古今の作曲家中でも珍しく裕福な、それも超の付く家庭環境だったらしい。幼い頃からしっかりした教育環境で育ち、同時代の作曲家からはひょっとしたらちょっと浮いてたかも知れない。しかし裕福故か人的交流は華やかで、同時代の多くの文化人と知り合ってもいるようだ。実際、彼が作曲した曲の多くも、そんな世界を反映してか明るく優雅で輝かしい曲が多いと言われている。ベートーベンやブラームスのようなクドさ重厚さは無く、代わりにいつでも安心して聴ける心温まる曲を多く作った。サロン的な雰囲気を好んだのかも知れない。
しかし多作家でありながら結果的に現在、彼の曲がそう多く演奏されてるとは言い難い。キッチリしたドイツ風の重厚さに比べ、ドイツ人でありながらラテン的曲想が多いのかもしれない。更には存命当時からユダヤ系故の、そして第二次大戦前夜にも少なからぬ迫害を受けたと言われる。
今日もっとも有名なのは、シェークスピアの戯曲「真夏の夜の夢」の劇中音楽として作曲された「結婚行進曲」。「ちゃちゃちゃちゃーん、ちゃちゃちゃちゃーん」というあの華やかな音楽である。そしてこのメンコンことヴァイオリン協奏曲。
いやいや、クラシック愛好家にとって、他にも多くの曲があることは否定しない。が、結果論とはいえやはり一般的には彼も一発屋?に近い?
メンデルスゾーンはわずか38年余りの生涯とは言え、音楽史的に様々な重要な働きをし後世に多大な影響を与えた大人物である。何より彼は近代指揮法の開祖であった。それまでの指揮者は主にテンポを取るだけのメトロノームの代わりに過ぎなかった。彼はそのメトロノームを監督に引き上げたのである。メンデルスゾーン以後、指揮者は音楽を総括し組み立て直し、オーケストラに指示を与える職業となった。
そして歴史に埋もれ忘れ去られていた数々の音楽を復活させたのである。バッハの最高傑作とも言われる宗教曲「マタイ受難曲」など、彼無しには歴史に埋没していたかも知れないのだ。
さてメンコンである。曲は、第一楽章冒頭の数小節聴いただけで「ああーっこれー」ってみんなが思うほど超有名。哀調を帯びたその優雅な旋律は映画・ドラマ・CMなど様々な場面で引っ張りだこ。知らない人はいない。もしいたら・・・m(_ _)m
第二楽章は静かで物思いに耽るようなヴァイオリンが美しい。
第三楽章は元気に跳ね回る子鹿でも思わせるように、明るく生き生きした旋律の楽しい音楽。三楽章中でもこの楽章をもっともお気に入りとする人も多いと聞く。
尚、メンコンは楽章こそ分かれてはいるが、全曲は途切れなく通して演奏される。
 
推薦盤

ヴァイオリン:アイザック・スターン
小沢指揮ボストン交響楽団(メンデルスゾーン)
ロストロポーヴィチ指揮ナショナル交響楽団(チャイコフスキー)
1977&1980録音 CD番号:22DC5533 ソニー

古今東西名盤を数え上げたら数知れず。巨匠から若手までヴァイオリニストならば一度は演奏し、また録音する名曲中の名曲。この盤はそんな中から私が所有する中のベスト。20数年前、スターン絶頂期の演奏である。
 
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